政府は1月30日に、NTTが率いる技術開発プロジェクト「IOWN(アイオン)」の開発プロジェクトへ出資すると発表した。これを受けてNTTは、IOWNに関する記者説明会を実施し、IOWNの構想を説明した。
IOWNは、NTTが提唱する、2030年の通信ネットワークの構想だ。「Innovative Optical and Wireless Network」の頭文字を取った言葉だ。
おおまかに言うと、IOWNは「大量の情報を少ない遅延で伝えて、機器同士が滑らかに連携するネットワークを作る」という構想だ。IOWNが実現する遅延の少ない通信網は、遠く離れた場所の様子をその場にいるかのように体験したり、ロボットや自動運転車などと協働で作業したりするような社会の基盤となる通信網を作るものだ。
IOWNには3本柱の構想があるが、その中核となるのが、「オールフォトニクスネットワーク(APN)」だ。1月30日に経済産業省が発表したNEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)による支援も、このAPNに関わるものだ。
APNは、従来の固定通信網を革新して、光を使う通信をネットワークの端から端まで拡大しようというアイデアだ。
オールフォトニクスネットワーク(APN)が実現すると、これまでよりも格段に高速で、しかも地球環境にも優しい通信網が構築するという。NTTは、ネットワーク全体の通信容量が125倍になり、電力効率も100倍になるという目標を示している。
光通信は銅製ケーブルのメタル通信の10倍の伝送速度が出せる。現代の長距離通信のほとんどは、光ファイバーケーブルを通っている。一方で、末端の通信、つまり家庭内のPC、企業のデータセンター内部の通信は、メタルケーブルの通信が主流だ。
この低速なメタルケーブルの領域を減らして、なるべく多くの通信を光ファイバーに担わせるのが、APNの基本的な考え方だ。そのために必要なのが、光と電子を一体的に扱う「光電融合デバイス」と呼ばれる機器だ。
NTTは光電融合デバイスを小型化して、将来的には半導体のチップレット(集積回路)にするロードマップを描いている。
通信経路が全て光化すると、高速で、遅延が大幅に抑えられるだけでなく、障害時などに自動的に迂回(うかい)ルートを取るような柔軟なネットワーク構成が可能となるという。
また、光電融合デバイスをPCやスマホに組み込めるサイズまで小型化すると、外部の計算資源、すなわちメモリやCPUやGPUに光電融合デバイスを必要に応じて借りられるような、ネットワークを通じた処理性能強化も実現するという。
NTTは「光を電気信号に変換せずに、演算できる集積回路」の開発も進めている。これが実現すると、通信経路上のサーバで光電変換によるロスをほとんどなくなり、ネットワーク内部の電力消費を大きく抑えることができる。
経済産業省は1月30日に、外郭団体のNEDOを通じてIOWNプロジェクト出資することを明らかにした。金額は最大452億円とされる。
この出資はNEDOの委託・助成事業として行われる。
研究開発のテーマは以下の3点だ。(1)と(2)は5年間の委託事業、(3)は3年間の助成事業となっている。
(1)光チップレットを実装する技術の開発
(2)光電融合インタフェースとつながるメモリモジュールの開発
(3)確定遅延コンピューティングの基盤技術の開発
これらは、IOWN構想を実現する過程で生まれる技術だ。(1)の内容はIOWN構想が目的とするチップレットの開発と同義だ。
(2)は、その応用で、光電融合インタフェースにより、ネットワーク上からアクセスできるメモリモジュールの開発を目指すものだ。代表提案者はキオクシアで、NTTは共同提案者となっている。この研究では、高速な光通信とつなげたときに、相対的に低速なメモリの書き込みに書き漏らしがないよう速度を調整するのが重要となるという。
(3)の研究では遅延がどの程度発生するかを、高い精度で決められる通信ネットワークを構築する。一般的なコンピュータの通信とは異なり、時間内に応答が必ずあることを担保できるため、効率のよいネットワーク活用が実現するとしている。
NTTのIOWN構想を推進する荒金陽助氏はIOWN構想を政府が支援した要因について「我が国としての大きな戦略があると考える」という見方を示し、「支援により研究開発が加速しているのは間違いない」とコメントした。
なお、IOWN事業については既にNICTが出資している。NTTはNEDOとNICT(情報通信研究機構)の両団体から助成を獲得したことになる。
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