KDDIのオンライン専用ブランド「povo2.0」に、データ専用プランが加わった。音声通話やSMSには非対応ながら、「最短3分で開通」することを売りにしている。提供開始までの時間を短くするため、物理的なSIMカードはなく、eSIM専用。もともとpovo2.0は基本料が無料のため、データ通信専用でも料金は変わらない。音声通話に対応する通常のpovo2.0と同様、トッピングも利用できる。
一方で、音声通話やSMSができず、物理SIMもなく、eSIMプロファイルの再発行にも非対応。「大は小を兼ねる」という観点では、音声通話に対応した通常のpovo2.0よりもサービスが“劣化”しているようにも見えてしまう。音声通話に非対応だったiPadなどのタブレットにも、通常のpovo2.0は使えたからだ。では、なぜpovo2.0はデータ通信専用のSIM発行に踏み切ったのか。実際に契約しつつ、その狙いを解説していきたい。
データ通信専用という点を除けば、そのスペックはおおむねこれまでのpovo2.0と同じ。音声通話とSMSは利用できない一方で、トッピングを付けることは可能で、5Gにも対応している。ネットワークもauやUQ mobileと同じだ。MVNOとは異なり、相互接続点(POI)にボトルネックがあるわけではないため、基本的には通信品質も変わらない。
大きな違いは、物理SIMに非対応なところ。ユーザーがeSIM対応端末を持っていなければ利用はできない。また、eSIMのプロファイルを再発行し、新たな端末に移すことも不可能になっている。データ通信専用ゆえに、電話番号を新しい端末に移すための“機種変更”をする必要性は薄いが、トッピングを付けた状態のまま新しい端末にプロファイルを移せない点には注意が必要だ。
また、申し込み時にクレジットカードの登録だけでなく、初回のトッピングを購入しなければならない。選べるのは、「データ使い放題(24時間)」か「データ追加0.3GB(365日間)」。すぐにpovo2.0で大量のデータ通信をしたいときには前者、タブレットなどに入れて長く使っていきたいときには後者をトッピングすればいいだろう。どちらも料金は330円(税込み)かかる。
音声通話やSMS、プロファイルの再発行に非対応という仕様面だけで判断すると、通常のpovo2.0より劣っているようにも見えるが、データ通信専用SIMの売りはそこにあるわけではない。「最短3分」をうたっていることからも分かるように、KDDI Digital Lifeも利用開始までの時間の短さを売りにしている。
音声通話に対応している場合、身分証明書を使った本人確認が法律で必須になっているからだ。povo2.0は、オンラインで契約できるeKYCに対応しているが、契約の途中で身分証明書と本人の画像を照合させるプロセスがある。画像などを使ったなりすましを防ぐため、画面の指示に従い、顔を動かす必要もあり、時間や手間がかかるのも事実だ。これに対し、データ通信専用のSIMであれば、本人確認を簡略化することが可能だ。
MNOやMVNOの一部は、データ通信専用SIMでも本人確認を実施しているが、これはあくまで業界団体の定めた自主規制にのっとったもの。法律で定められたルールではない。実際、楽天モバイルも楽天カードなどの個人情報を使って契約を簡略化する際には、データ通信専用SIMを用意していた。支払いのためのクレジットカードや住所などの情報は必要だが、eKYCほど厳密な手続きをしなくて済むため、すぐにデータ通信をしたいというユーザーのニーズには応えられる。povo2.0のデータ通信専用SIMも、発想は同じとみていいだろう。
【更新:2024年3月30日13時05分 「MVNOの一部」→「MNOやMVNOの一部」と修正しました。】
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