このタイミングでpovo2.0がデータ通信専用のサービスを開始した背景には、同ブランドのホワイトレーベル戦略が密接に関係しているとみていいだろう。2月にスペイン・バルセロナで開催されたMWC Barcelonaで、KDDI Digital Lifeはpovo2.0の今後の展開を明かした。SDKを通じて他社のサイトやアプリからpovo2.0の回線を利用できるようにすることで、黒子として回線を提供するのが同社の次の一手だ。
MWCでは、そのデモとしてアイドルのファンサイトから直接、povo2.0のeSIMプロファイルを発行したり、トッピングを購入できたりする仕組みを展示していた。ユーザーはそれをpovo2.0と意識せず、そのサイトで利用するのに必要な回線やトッピングを入手するというのがそのコンセプトだ。ホワイトレーベル化のテストとして、日本ではライブ配信サービス「SHOWROOM」に直接povo2.0のトッピングを購入できる仕掛けも展開していたという。
KDDI Digital Lifeの代表取締役社長、秋山敏郎氏は「テレコ(通信事業者)が持っていた機能をオープン化し、パートナーに自由に使ってもらうというのが趣旨」と語る。秋山氏が例として挙げていたのは、テーマパーク。ワンデーチケットを販売するようなアプリ内にpovo2.0を組み込み、Wi-Fiの代わりにモバイルネットワークを提供するというものだ。スポット的に場所が限定されるWi-Fiとは異なり、基本的にはどこでも通信ができるため、テーマパークとは相性がいい。
これまで通り、povo2.0側が回線を販売することもできるが、テーマパークのユーザー接点としてのアプリからpovo2.0をスマホに組み込めた方がフローとしては自然だ。テーマパークに限らず、カラオケやレストランなど、リアルな場への応用も効く。また、SHOWROOMのようなデジタルサービスを提供する事業者が、コンテンツの利用に必要な分だけpovo2.0のトッピングを配布するといったことがしやすくなる。現在、povo2.0ではローソンのからあげクンや、ミスタードーナッツのギフト券を組み込んだトッピングを販売しているが、ホワイトレーベル化は、これと逆ベクトルの取り組みといえそうだ。
ワンショットでpovo2.0の回線を使ってもらう際に課題になっていたのが、本人認証を含めた回線契約の煩雑さだ。秋山氏は、そのハードルを「最大の問題は(eKYCで)首を振らなければいけないこと」と語り、「さすがにそれはない」と断言。解決策の1つとして、「今のような使い方だと音声はいらない」と述べ、本人確認が比較的緩いデータ通信専用回線の導入を示唆していた。データ通信専用回線の導入で、ホワイトレーベル化に必要なピースがそろった格好だ。
ただし、住所入力やメールアドレス登録の手間など、まだ乗り越えるべき壁がある。povo2.0のアプリ以外からeSIMを発行する場合には、その事業者のアプリに登録した氏名や住所を流用できるようにするなど、仕組みを整えていくことは必要だ。また、今回の契約では、Safariに登録したクレジットカード情報を使えなかったが、これも自動入力できた方がより契約を簡素化できる。
有料の場合でもアカウント情報や決済情報を入力するだけで済むWi-Fiに近い使い勝手を実現するには、あと一歩といったところだろう。こうした細かな改善点がある一方で、データ通信専用回線の提供でホワイトレーベル化に一歩近づいたのも確かだ。秋山氏は「来年度(24年度)上期で3つ、4つは出していかないといけない」と語っていたが、その要素を急ピッチで整えていることがうかがえる。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.