5Gでは、異なるネットワークにアプリを介した通信を可能にする「ネットワークAPI」の開放が進んでいる。佐々木氏は、ネットワークAPIの開放は、MVNOのビジネスモデルと親和性が高く、MVNOが積極的に取り組むべき分野であると語った。その上で、ネットワークAPIの開放は、アプリ事業者と通信事業者との連携を促進する一方で、大手MNOが主導となる可能性があることを指摘。MVNOが積極的に議論に参加し、ビジネスチャンスを広げていくことが重要であるとした。
情報通信総合研究所の岸田氏は、ネットワークAPIはこれまでも議論されてきたが、今回は通信事業者側の危機感がこれまで以上に高まっていると指摘する。
「通信事業者は、通信ネットワークが単なるパイプラインとなり、端末やアプリ、クラウドで価値が生まれてしまうことへの危機感がある。ネットワークAPIの開放は、通信事業者が新たな収益源を確保するための手段の1つだ」(岸田氏)
AIエージェントの進化は、MVNO事業にも大きな影響を与えると考えられる。
イオンモバイルの井原氏は、AIエージェントを活用することで、顧客に最適な料金プランやオプションを提案するなど、顧客体験価値の向上が期待できると語った。
「われわれは細かい料金プランを用意させていただいているが、最適にご利用いただくためには、お客さまご自身でその確認をする必要がある。通話に関しても、かけ放題を3つ用意させていただいているが、どれが適切か、もしくはもともと入らなくてもいいのか、マイページなどにAIエージェントを入れて、最適なご提案をサポートすることは検討するべきだ」(井原氏)
オプテージの松田氏も、AI技術を持つスタートアップ企業などと連携することで、MVNOのサービスに新たな価値を付与できるのではないかと語った。
房野氏は、AIエージェントはまだ発展途上であるとしつつも、料金プランの提案など、MVNOのサービスにおけるAI活用に期待感を示した。
パネルディスカッションでは、MVNOが今後も成長していくために、価格競争からの脱却を図り、新たな価値を創造していくことの重要性が確認された。
岸田氏は、「これまでは通信が速いとか、データ容量が多いとか安いとか、トラフィックそのものの話が中心だった。一方で、通信事業者はAPIのように通信以外の付加価値を求めないと先がないと認識してきている」と指摘。AIなどの新たな技術を取り込むことで、MVNOのサービスは大きく変わる可能性があると語った。
房野氏は、MVNOがIIJmioやmineo、イオンモバイルといった個別のブランド名で語られるようになる未来を期待すると語り、MVNOのさらなる個性化に期待を寄せていた。
イオンモバイルの井原氏は、スマートフォンの重要性が増す中で、通信事業者には価格だけでなく、安心安全な通信環境やトラブル発生時のサポートなど、より高いレベルのサービス提供が求められるようになると指摘。その上で、「MVNO同士でもう少し連携しあえば、MNOには対抗できない部分を提供できる可能性もある」と語った。
オプテージの松田氏は、MVNOはきめ細かいサービスを提供できる点が強みだとし、AIやIoTなど、さまざまな分野の事業者と連携することで、新たな価値を提供できると語った。
MVNO委員会委員長の佐々木氏は、パネルディスカッションの総括として「パネリストがどんな結論を出すかということよりも、今回の議論をオンライン・オフラインで聞いていただいた皆さまがどんな気付きを得るのかということが重要」だとした上で、ネットワークのオープン化という大きな流れの中で、MVNOは、MNOのネットワークを利用するだけでなく、自ら積極的にビジネスを創造していくという視点を持つことが重要であると語った。
「これまでは、MNOのネットワークをどう解放させるかというような、やや従属的な議論になっていた。今後は、MVNOがどのようにビジネスを展開していきたいのかという、もっとポジティブな視点に立って議論を進めていくことが重要なのではないかと感じている」(佐々木氏)
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