MVNOは通信以外の付加価値を求めないと先がない 海外MVNOから学ぶこと、eSIMや生成AIの活用も重要に(2/3 ページ)

» 2025年04月03日 10時30分 公開
[山本竜也ITmedia]

海外MVNO事例から学ぶ、料金プランの多様性と戦略

 基調講演では、情報通信総合研究所の岸田氏から海外でのMVNOの事例が紹介された。モデレーターの堀越氏から、海外の事例が日本に導入される可能性について聞かれた岸田氏は、「米国では昔から値下げ競争は行っておらず、おまけや特典などで付加価値を付け、むしろ単価を上げる方向に動いている」と日本の市場との違いを指摘した。「シンプルにユーザーをある程度囲ってしまうと、急に増える、急に減るということが少なくなる。この状況で単価を下げると、収益に直接影響してしまう。このため、米国のMNOは値下げ競争を極力避けてきた」

 一方でMVNOに関しては日本以上に多様性が進んでおり、米国や欧州では裕福層向けや低所得者層向け、特定民族向けなど隙間を狙いやすいマーケットになっているという。日本でもMNOが値上げ路線に方向転換すれば、価格競争から一転して付加価値を付ける米国的な環境に近づく可能性もあるとしている。

 また、米国ではデータ容量無制限が当たり前になっているという話も出ている。これについてイオンモバイルの井原氏は「povoのような少し特殊なサービスも出てきており、非常に面白いと思っている。今後、他からも同様のサービスが出てくるだろうし、行きつく先は無制限ということになるだろう。一方で、日本では、もったいないという意識から、使わないのに無制限ということよしとしない利用者も多い。そこがきれいにすみ分けられていくのかもしれない」と文化的な違いを指摘した。

 「mineoでは、必要な容量を必要な形で組み合わせて使ってくださいというコンセプトを当初から掲げている。容量的なサービスの分部もあれば、通信速度を制限する代わりに使い放題になるプラン、夜間だけ使い放題になるプランなど、ライフスタイルに合わせた提案を行っている。今後も組み合わせて使っていただく形で提案していきたい」(オプテージ松田氏)。

ポストペイ比率が高い日本は、世界的に見ると特殊な市場

 海外のMVNO事情について聞かれたMVNO委員会委員長の佐々木氏は、世界的に見ると、日本市場が特殊だと指摘する。それは、「日本はポストペイの比率が極めて高い」から。

 「ほぼ100%の人がポストペイに慣れている。そのポストペイについても海外では30日とか28日といった単位が一般的だが、日本では月単位で、月によって契約期間が変わる。当たり前に感じるが、世界的には珍しい。日本では電電公社の時代から、通信の契約はこの形だったので慣れている。povoが30日単位ということを導入したのは、思い切ったことをやったなと感じた」(佐々木氏)

 利用者は慣れたサービスを好むため、povoに続く(30日課金などの)サービスが出てこない理由の1つになっているのではないかともしている。

 これについて、堀越氏は「利用者は慣れたものを使いたがるため、意見を聞いてもこれまでにない新しいサービスを評価できない可能性がある。利用者の声を聞かずに、サービスを提供する側から新しい提案をすることで、利用者の生活を変えるというアプローチもあるのではないか」と述べる。

 これを受けて佐々木氏は「IIJで、通信速度が128kbpsで高速通信用のパケットを購入し、その分高速通信を行える『ミニマムスタートプラン』を企画したが、社内では『こんなものは売れない』と厳しい意見が出ていた。しかし、ふたを開けると、われわれのMVNOサービスの基本になっている。こういうプロダクトアウト的な考えで一気に文化が変わっていくということは当然あり得ることだと思っている。そこを狙っていくのがサービスを企画する人間の醍醐味(だいごみ)」だと、過去の事例を交えて説明した。

 その後、岸田氏から欧州でのMVNO市場についても紹介があった。「欧州はMVNO発祥の地ということもあり、多種多様なサービスが登場している。例えばドイツでは、新聞などを販売しているキオスクのような場所でもSIMカードを販売している。日本でいうと、コンビニでAppleギフトカードやゲームのカードを購入するのと同じような感覚だ。

 米国と同様に、トルコ人向けのSIMは、サービスセンターに電話をするとトルコ語で対応してくれたり、スパニッシュ向けではスペイン語で対応してくれたりする。他にも、子ども向けに親がコントロールできるサービスなどいろいろなものがある」

 こうした内容について、堀越氏は「日本が参考にできる部分もあるが、日本ならではの新しいモデルを日本がフロントランナーになって立ち上げていくようなターンになっている気もしてきた」と先行事例にとらわれないサービス構築の可能性を示唆している。

eSIMを活用することで、さまざまな顧客接点を持てる

 最後のパートでは、MVNOのeSIM技術による販売モデルの転換や、IoT・法人向けのキッティングソリューションへの展開可能性などが議論された。

 岸田氏は、eSIMは顧客との接点を広げる上で大きなチャンスになると指摘。「契約そのものがアプリ上で完結するなど、eSIMは対面やリアルな店舗に縛られない」とし、eSIMと親和性の高いMVNOは、eSIMの活用次第でさまざまな顧客接点を持つことができると語った。

 例えば、イベントの公式アプリとeSIMを組み合わせることで、イベント参加者限定の特典を提供したり、eSIMをプリペイド方式で提供することで、利用者が自身の利用状況に合わせて柔軟にデータ通信を利用したりできるなど、新たなサービスが提供できる可能性が示唆された。

 イオンモバイルの井原氏は、eSIMは手軽に何枚もスマートフォンに入れられるという特徴から、「eSIMを認証に使うことで、持っている人だけが特別なクーポンをもらえるなどの活用ができるのではないか」と語り、eSIMによって顧客体験価値を高められる可能性に期待感を示した。

 オプテージの松田氏は、eSIMによって物理的なSIMカードのやりとりが不要になることに着目。「eSIMはスマートフォンだけでなく、さまざまなIoT機器との連携も容易にする。MVNOがeSIMとIoTを組み合わせたサービスを提供することで、新たな価値創造につながるのではないか」と語った。

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