ただ、楽天モバイルの場合、衛星通信事業者と提携してサービスを使う一般的なキャリアとは違い、ある程度コストを回収しやすい側面もある。衛星の開発、運用を行うASTに創業時から出資しているからだ。楽天グループは、創業資金として300億円を提供しており、その出資比率は20%にも上っていた。その後、議決権比率は低下し、重要な影響力は失ったとしているが、金融資産としてASTの株を会計処理したことにより、2024年度第4四半期には1000億円の評価益を計上している。
この時点でASTは持ち分法適用会社ではなくなっているため、売り上げや利益を直接楽天グループで計上できないものの、グローバルでサービスを始めるキャリアが増え、収益を上げられるようになれば、資産価値が向上する可能性はある。グローバルでは、米国のAT&TやVerizon、英国のVodafone、カナダのBellといった大手キャリアが戦略的パートナーとして参画しており、サービスが開始されれば、複数国での利用が始まる見通しも立っている。
また、三木谷氏は「楽天(グループ)はファウンディング・インベスター(創業時の投資家)というステータスで、細かい契約は申し上げられないが、かなり優位性のある契約になっている」と語る。創業時から資金面だけでなく、技術面でもASTをバックアップしてきたことで、他社よりも有利な条件で衛星を使えるというわけだ。三木谷氏は、「それぐらい最初にリスクを取った」と自信をのぞかせる。
もう1つの収益源といえそうなのが、楽天シンフォニーだ。楽天モバイルが「ゲートウェイ地球局」と呼ぶ地上側の設備には、楽天シンフォニーのソフトウェアが活用されている。通常の地上に設置した基地局とは異なり、衛星特有のドップラーシフト(移動の速度によってサイレンの音などの波長が変化して観測される現象で、電波にも当てはまる)や遅延の補正などを行う処理も入っているという。この設備を他のキャリアに提供することでも、収益を得られる。
楽天シンフォニーのポートフォリオ。下から2番目に描かれているOpen RANのソフトウェアには、衛星通信のソフトウェアも含まれている。写真はMWC Barcelonaで開催した楽天シンフォニーのイベントで撮影他のベンダーでも実現は可能だが、三木谷氏によると、「彼ら(海外キャリア)の地上局のOpen RANのソフトウェアは、できれば楽天シンフォニーにしてくださいというお願いをしている」という。ASTのサービスが商用化されたのを機に、楽天シンフォニーのビジネスを加速させることも「狙っていきたい」(同)という。ユーザーにサービスを提供しつつ、ASTから投資のリターンも得られたうえに、楽天シンフォニーの成長にもつながる――楽天グループは、1粒で3度おいしいビジネスモデルを描いているといえる。
もっとも、実際にサービスインできなければ、こうしたビジネスモデルも絵に描いた餅になってしまう。まずは、現在5基の衛星をいかに増やしていくかが急務といえそうだ。また、スムーズなハンドオーバーなどの特徴も、現状では衛星の数が少なく、商用環境で実証されたわけではない点にも留意が必要だ。仮にプラチナバンドを使った場合、帯域幅が狭いため、三木谷氏が語っていたような動画視聴などができるのかも未知数といえる。約1年半後というとかなり先のことのようにも聞こえるが、残された時間は少ない。
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