楽天モバイルの衛星通信に欠かせない「3つの強み」、災害時も柔軟に運用 料金プラン発表はまだ先か(1/2 ページ)

» 2025年09月02日 11時30分 公開
[金子麟太郎ITmedia]

 楽天モバイルは9月1日、「Rakuten最強衛星サービス Powered by AST SpaceMobile」の仕組みや自社の強みを改めて報道陣にアピールした。2025年4月には、日本国内で初めて、低軌道衛星と市販スマートフォン同士のエンドツーエンドでの直接通信によるビデオ通話に成功しており、サービス開始予定の2026年第4四半期(10〜12月)に向けて準備を進めている。

RakutenMobile 楽天モバイル 「Rakuten最強衛星サービス Powered by AST SpaceMobile」

 4月の記者会見では、楽天グループの代表取締役社長兼会長の三木谷浩史氏が「ブロードバンドで面積カバー率100%を実現する」こと、「動画やビデオ通話もできる」ことなど、具体的に何ができるのかをアピールし、スマートフォンと衛星をつないでビデオ通話ができると証明していた。今回、楽天モバイル 先端技術開発統括部 ヴァイスディレクター ハ・ヒョンミン氏がより詳細に語った。

RakutenMobile 楽天モバイル 楽天モバイル 先端技術開発統括部 ヴァイスディレクター ハ・ヒョンミン氏
RakutenMobile 楽天モバイル 通信機器メーカーの技術営業職などをへて、楽天モバイルに入社。政府機関との共同研究やプロジェクト管理、今回のテーマでもある非地上系ネットワークなどの先端技術開発を統括する

Rakuten最強衛星サービスの概要と真の目的は

 Rakuten最強衛星サービスは、楽天モバイルが米国のAST SpaceMobile(以下、AST)と提携して提供を目指す、衛星とスマートフォンが直接通信を行うサービスだ。このプロジェクトは、サービス名が正式に発表される以前から「スペースモバイルプロジェクト」として推進されてきた。

 その真の目的は、宇宙空間に打ち上げた低軌道衛星(LEO)から地上に向けて直接電波を発射することにより、これまで携帯電話の電波が届きにくかった山岳地帯や離島といった不感地帯を解消し、日本全国の面積カバー率100%を達成すること。さらに、大規模な自然災害が発生し、地上の基地局が停電や物理的な損壊によって機能停止に陥った場合でも、被災地における通信サービスを継続的に提供する、いわゆる「ネットワークの冗長性」を確保することも重要な使命としている。

RakutenMobile 楽天モバイル Rakuten最強衛星サービスはもともと「スペースモバイルプロジェクト」として推進されてきた。楽天モバイルでは低軌道衛星(LEO)を活用して、地上のエリアをカバーする

 そのため、Rakuten最強衛星サービスの存在意義は、地下空間を含む全エリアを積極的にカバーすることではなく、あくまで地上の通信ネットワークが及ばない、あるいは機能しなくなったエリアを空から補完することにあるといえる。サービス開始後に「地下も圏外ゼロ」になるわけではない。

全ては楽天モバイルとASTの提携から始まる

 楽天モバイルとASTの提携は2020年3月の出資に始まり、その後、具体的な技術開発と実証実験が着実に進められてきた。ASTは2022年9月に、このサービスの技術的な基盤となる低軌道試験衛星「BlueWalker 3」の打ち上げに成功。翌2023年4月には、英Vodafoneや米AT&Tといった世界的な通信事業者と共同で、市販のスマートフォン同士を用いた音声通話の試験に世界で初めて成功し、衛星とスマホの直接通信が現実的な技術であることを証明した。日本国内での展開に向けて、楽天モバイルは2022年11月に実験試験局免許の予備免許を取得し、国内での実証実験に向けた準備を進めてきた。

 この取り組みに賛同する企業も通信業界やテクノロジー業界のいわば巨人だ。ASTはAT&T、Verizon、Google、Vodafoneなどを含む7社と戦略的パートナーシップを締結しており、提携企業数は既に40社に達している。サービスの商用化に向けた動きも加速しており、ASTは2024年9月に最初の商用衛星群となる「BlueBird Block 1」を5機打ち上げ、10月にはその全てのアンテナ展開に成功したと発表した。

 4月13日には、楽天モバイルとASTが、日本国内で初めて低軌道衛星と市販のスマートフォンを直接接続し、ビデオ通話を行うことに成功したと発表した。同日、福島県にいるスタッフが持つスマートフォンと、三木谷氏が持つ端末が衛星を経由してクリアな映像と音声で接続される様子が公開された。

RakutenMobile 楽天モバイル 楽天モバイルとASTは4月13日、日本国内で初めて、低軌道衛星と市販スマートフォン同士の直接通信によるビデオ通話に成功したと発表した。画像は三木谷氏と福島県のスタッフが衛星通信を用いてビデオ通話をする様子

Rakuten最強衛星サービスに欠かせない「アンテナの大きさ」「ビームフォーミング」「ハンドオーバー」

 ハ・ヒョンミン氏は、Rakuten最強衛星サービスがスマートフォンとの直接通信を実現する仕組みを解説した。楽天モバイルが最もアピールするのは衛星のアンテナサイズだ。「巨大なフェーズドアレイアンテナを採用しているので、衛星からスマホに電波が直接届きやすい」(同氏)

RakutenMobile 楽天モバイル Rakuten最強衛星サービスの仕組み。衛星とスマートフォン(サービス対象機種)が直接通信し、地上のゲートウェイ地球局を介して楽天モバイル回線につながる

 従来の衛星通信では、スマートフォンが発する微弱な電波を宇宙空間にある衛星で受信することは極めて困難であったため、専用の衛星電話や、より強力な電波を送受信できる大型のアンテナ設備が必要だった。対して、ASTの衛星は面積の大きいアンテナを搭載しており、「スマートフォンから発せられるわずかな電波でも高感度で捉えることが可能になる」(同氏)そうだ。

RakutenMobile 楽天モバイル 楽天モバイルがアピールする衛星の巨大なアンテナにより、「スマートフォンから発せられるわずかな電波でも高感度で捉えることが可能になる」そうだ

 この衛星の大きさは特筆すべきものであり、現在打ち上げられている商用衛星「BlueBird Block 1」のアンテナ面積は約64平方メートルだが、今後打ち上げが計画されている「Block 2」では、その面積が223平方メートルにも達する。これはBlock 1の約3.5倍の大きさであり、テニスコート一面分に匹敵するほどの巨大さだ。そのサイズからも地上で完全に組み立てることは困難で、「壁に立てかけるような形で製造されている」(同氏)という。

RakutenMobile 楽天モバイル 壁に立てかけるような形で製造されている衛星「BlueBird Block 2」のアンテナ

 Rakuten最強衛星サービスでは、より広いエリアをカバーできるよう、特定の方向に電波を集中させる「ビームフォーミング」技術も活用する。これによって、面積カバー率が向上する。

RakutenMobile 楽天モバイル 特定の方向に電波を集中させる「ビームフォーミング」技術を衛星通信にも活用する

 さらに、スマートフォンが地球を周回する衛星と途切れずに通信できることも重要になっていくという。三木谷氏によれば、将来的には50機の衛星が約1時間で地球を2周するほどの速度で周回し、全世界をシームレスにカバーする構想だという。それゆえ、ハ・ヒョンミン氏は「ハンドオーバー」も重要だと説明する。衛星が切り替わる際に完全に通信を絶たずに、2機同時に同じエリアをカバーできるようにし、前の1機がカバーできなくなると、後ろのもう1機が再び同じエリアをカバーするイメージだ。

RakutenMobile 楽天モバイル 「ハンドオーバー」のイメージ。2機同時に同じエリアをカバーするタイミングがあり、これによりスムーズにつながり続けるという
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