ドコモAI社長が記者会見を行う日は到来するのだろうか――。NTTドコモの前田義晃社長を模したAIアバター「アバター前田社長」は、すでに社内でキャリア相談に活用されている。見た目は本物そっくりで、公開資料を確認する限り違和感はほとんどないように見えるが、実際のところはどうなのか。ドコモ広報に詳細を聞いた。
広報は「再現された社長の声は非常にリアルです。実際に前田社長の動画をご覧になった社員や、過去に業務で関わった社員からも『よく似ている』との感想が多く寄せられています」と説明する。
さらに「声が似ているからこそ、まるで社長と直接話しているような緊張感がある」との声も寄せられており、単なる音声合成を超えた“存在感”を社員に与えているという。
声のリアルさを支えているのがNTT独自の「クロスリンガル音声合成」技術だ。広報は「1つの言語の音声から、声の個性や声色はそのままに、言語だけを変えたり、他言語の音声を生成できる技術」と説明する。
具体的には「15秒程度の前田社長による決算説明動画を学習データに用いることで音声を生成できています」とのことで、ごく短い素材からでも高精度な再現を実現しているのが特徴だ。
社員アンケートの結果も好意的だ。広報によれば「『キャリアという漠然としたものを言語化できた』『短時間で自身のキャリアについて整理できた』『キャリアシートの具体的な記載内容を作成できた』といったコメントをいただいております」とのことだ。
アバターとの対話は、社員に自己分析を促す設計になっており、答えに詰まっても「思い浮かびません」と伝えたり、逆にアドバイスを求めたりできる。こうした柔軟さが、本音を引き出す仕組みとして働いている。
一方で、記者会見や決算発表のような場で活用するには慎重な姿勢を見せる。広報は「誤った発言や回答が許容されにくい場面での利用には、現時点ではハードルがあると考えております」と話す。正確性が求められる公的な場では、AIアバターに委ねきることは難しい。
ただし「展示会については内容次第で実現可能と考えております。実際に、開発した主管部の社内イベントでは活用実績があります」とも述べており、利用の場を選べば十分に導入可能だという。特にキャリア相談や自己成長をテーマとする領域では「導入しやすい」と位置付けている。
企業トップのAIアバター化は、ドコモに限らない。楽天グループは5月14日に行った2025年度第1四半期決算説明会で、三木谷浩史会長をAIアバター化した「三木谷AI」を登場させた。実際に決算パートをAIが説明するという踏み込んだ事例だ。
ただ、記者としては「AIが述べた言葉やニュアンスをその通りに受け取り、三木谷氏本人の発言として記事に掲載してよいのか」という疑問が生じる。この点について三木谷氏は「三木谷AIの発言は事前に確認しているため、本人の発言として受け取って問題ない」との見解を示している。
AIアバターの発言をどこまで「本人の言葉」として扱うかは、記者や視聴者にとって新たな課題だ。楽天の取り組みは、技術的な実現性だけでなく、受け手側の信頼性確保にも一石を投じている。
アバター前田社長は、AIが人材育成の現場に入り込む一例となっている。声のリアルさと技術的裏付けは確かなものだが、会見など公的な舞台で“登壇”するにはまだ課題が残るようだが、活用事例が今後どう増えていくのかに注目したい。
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