KDDIは9月2日、利用者が快適に音声通話やデータ通信を行えるよう、事前にさまざまな設備や測定器を用いて検証を実施しているとし、noteで解説記事を公開した。記事内では、検証に必要なラボ環境や基地局シミュレータの活用方法を紹介している。
そもそも電波は目に見えるものではなく、専門の機器を用いて数値化したりグラフ化したりすることで視覚的に情報として得られる。携帯電話をはじめとするキャリアネットワーク対応の通信端末は、電波を介して基地局に接続し、コアネットワークを経てインターネットにつながる。
しかし、販売前の端末は電波法に基づく技術基準適合認証(技適)を取得していないため、実際のauの基地局に接続できない。このため、金属壁で遮蔽された「シールドルーム」と呼ばれる専用空間で検証が行われる。ここでは実際のネットワークを模擬し、音声通話やSMS、データ通信の動作確認が可能だ。
特に通勤電車や新幹線、車で移動しながらスマートフォンを使う例は当たり前だが、この際に通信が途絶えたり不安定になったりすると、利用者の利便性を欠いてしまう。そこで重要になるのが「ハンドオーバー」の検証だ。端末が移動中に電波の弱い基地局から強い基地局へ接続を切り替える現象を再現し、動作の安定性を確かめる。
「auの基地局で使用されている任意の周波数の電波を目的に応じて選択し、シールドルーム内に発射でき、強さも調整することができる仕組みになっています。左側の基地局の電波を弱めながら右側の基地局の電波を強める、という流れでハンドオーバーの検証を行っています」(KDDI)
電界強度の指標である「RSRP」「RSRQ」を端末画面に表示し、歩き回りながら変化を確認する。万一、基地局を切り替えないといった不具合が生じれば、端末メーカーやKDDI社内の基地局部門が連携し、原因を突き止めて修正するという。
実網では試せない項目もあるそうだ。「緊急呼(110、118、119番)は実網で実施すると緊急機関(警察、消防)につながってしまいますので、ラボ環境で実施します。ラボ環境で緊急呼発信すると検証用の疑似サーバに接続され、端末動作に問題ないかどうかの確認ができます」(KDDI)
ラボ環境でも再現が難しい事象は、基地局シミュレータが担う。これは基地局の動作を模擬する装置で、緊急地震速報や津波警報といったETWS(Earthquake and Tsunami Warning System)の情報を端末に送信できる。実際に地震が起こるのを待たずに、任意のタイミングで警報を発信でき、画面表示や警報音が正しく作動するか確認する。
シミュレータは災害時以外にも活躍する。海外ローミングや「au Starlink Direct」利用時の挙動を再現でき、現地に赴かずとも海外や衛星通信の環境を模擬可能だ。端末画面には「SpaceX - au」と表示され、衛星通信に切り替わる様子を確認できる。こうした検証により、利用者が国内外どこでも安心して通信できるよう備えている。
通信は、スマートフォンをはじめとする通信端末に必要なインフラといえる。利用者が日常的に当たり前のように行う通話や通信。その裏では、数多くの検証工程が積み重ねられている。KDDIは、「今回は紹介できませんでした」と前置きしつつ、「実網で実施可能な検証内容も存在しますので、全国津々浦々まで機材を持参し実網での検証も行っています。その様子は後日ご紹介できればと考えております」とした。
検証者としては、お出かけをして現地でつながりやすさの検証をしたいのに、それができない事情も明記されており、「つなぐことを使命」とするKDDIの努力の裏側を垣間見た──そんな気すらしたnote記事だった。
なお、携帯電話が地上基地局などを介してネットワークにつながる仕組みや、KDDIが注力している衛星通信に関する取り組みは、Webサイトだけでなく「KDDI MUSEUM」(東京都多摩市)という施設でも学べる。
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