Apple幹部がEUのデジタル市場法に「公平な競争ではない」と猛反発 “過激な解釈”で日本の「スマホ新法」に影響も?(1/2 ページ)

» 2025年09月22日 06時00分 公開
[石野純也ITmedia]

 欧州連合(EU)で施行されたデジタル市場法(DMA)の影響が、徐々に具体的なサービスへ影響を与え始めている。欧州委員会は、主要なデジタルプラットフォーマーを「ゲートキーパー」に指定。OSや課金システムの開放、相互運用性の確保を求めてきた。特に最後の相互運用性は、サードパーティーの機器をApple製品と同様の形で接続できるようにすることなど、厳しい条件をつきつけている。

 一方で、Appleはセキュリティやプライバシーの観点で、一部の措置には適用除外を求めてきた。ただ、9月19日には、「iOSの通知機能」「近接ペアリング」「ファイル転送手段」「自動Wi-Fi接続」「自動オーディオ切り替え」の除外申請がEUによって却下されている。

Apple Appleの幹部の1人であるグレッグ・ジョズウィアック氏が、日本のメディアの取材に答えた。写真はiPhone発表時の映像を撮ったもの

 その結果、Appleは欧州で一部の機能に制限を加えざるをえなくなった。MacにiPhoneの画面をそのまま表示できる「iPhoneミラーリング」は、その1つだ。また、9月に発表された新製品に関連する機能では、「AirPods Pro 3」などとiPhoneを接続することで利用可能になる「ライブ翻訳」にも非対応になった。

 この状況に、ジョズの愛称で知られるAppleのワールドワイドマーケティング担当上級副社長 グレッグ・ジョズウィアック氏が一部報道陣に向け、不満を爆発させた。

ソフトウェア構築の基本的な理解が不足している

 ジョズヴィアック氏は、「(iPhone 17 Proの新色である)コズミックオレンジほど面白い話ではないが、私たちにとって重要なこと」としながら、次のように語った。

 「結局のところ、政府は私たちの製品を再設計しようとしています。彼らはユーザーのために製品をよりよくするためではなく、富裕層の数少ない企業に利益をもたらすために行っていると考えています」

Apple iPhoneと連携し、ライブ翻訳を利用できるAirPods Pro 3。EUでは、この機能が利用できなくなってしまったという

 ジョズウィアック氏は、その原因を「DMAの過激な解釈に由来している」と続ける。ここまで厳しい適用になるのは、Appleにとっても想定外だったようだ。同氏は「欧州のユーザーや開発者、そして私たちにとっても予期せぬ結果を生み出している」と話す。

 「彼ら(欧州委員会)は、ユーザーのプライバシーとセキュリティを損ないました。彼らは私たちのイノベーションの力を妨げ、私たちに無料で技術を提供することを強要しました」

 Apple自身もアプリや周辺機器を開発する個人や企業にAPIを提供しているが、「これは非常に思慮深い方法で行われてきた」という。

 「このような機能をサードパーティーに公開することを検討する場合、常に開放のリスク評価をする必要がありました。ユーザーを保護する方法がないため、一部機能へのアクセスを開放しないと決断しなければいけないこともありました」

 一方、DMAではこうした制限に規制がかかる。ジョズウィアック氏が「(欧州委員会のある)ブリュッセルには、私たちの決定の多くを後から批判している官僚がいる」と語り、EUの対応を非難。「ソフトウェアがどのように構築されているかについて、基本的な理解が不足している」とたたみかけた。

 ジョズウィアック氏によると、こうした欧州からの規制は技術を標準化するプロセスとも真逆だという。

 「業界は何年もの間、標準化団体を通じてこれに取り組んできましたが、標準化団体はただ来て『それをやれ』と言うわけではありません。彼らは官僚ではなく、多くの優秀なエンジニアを集め、さまざまな企業やユーザーにとって有用な方法を考慮します」

Apple DMAを紹介する欧州委員会のサイト。Appleは、この法律でゲートキーパーに指定されており、厳しい規制が課されている

欧州で一部機能見送りの状況に「憤りを感じている」

 結果として、欧州では一部の機能の提供を見送っている。Apple自身がサービスを行わなければ、他社への開放も必要なくなるからだ。ただ、ジョズウィアック氏は、「こうした状況に憤りを感じている」とする。

 「ユーザーは当然ながら、それに怒っています。なぜ欧州のユーザーは他の皆が使えるこれらの機能を使えないのでしょうか。それを届けられないことにも、憤りを感じています」

 また、同氏はAirPodsがケースのふたを開けてすぐにペアリングできる機能を例に挙げつつ、こうした措置が技術開発を委縮させることにも懸念を示している。

 「これは魔法のような体験ですが、EUではそれができません。なぜなら、同じような機能を、初日から全ての他のデバイスに提供しなければならないからです。しかし、それは何年にも及ぶ投資の結果です。ハードとソフトに投資し、どのように実現するかを考え抜いてきました。それを、最小公約数に合わせて設計しなければなりません」

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