通信サービスにとっても、auじぶん銀行を生かせるのは他キャリアとの差別化につながりそうだ。ドコモは、10月に住信SBIネット銀行を傘下に収めたばかり。ソフトバンクも、ユーザー向けにPayPay銀行の住宅ローン優遇を提供し始めたが、預金残高の規模感などではauじぶん銀行の方が大きい。また、グループに楽天銀行を擁する楽天モバイルも含め、金融連携の本格的な料金プランは提供できていないのが現状だ。
ドコモのポイ活プランがdカードやd払い、ソフトバンクのペイトクがPayPayとの連携を打ち出しているように、金融・決済連携の料金プランは各社が得意とする分野を打ち出す傾向が強い。ドコモであれば契約数や上位カードの比率が高いクレジットカード、ソフトバンクであればコード決済として最大の規模を誇るPayPayといった具合だ。クレジットカードではドコモの、コード決済ではソフトバンクの後塵を拝している一方で、KDDIは強みの銀行を連携させてきたといえる。
auじぶん銀行は2008年に設立され、auとの連携や低金利の住宅ローンなどで急成長している。ここをフックにした料金プランは、銀行を傘下に収めたばかりのドコモや、連携が十分取れていないソフトバンクとの差別化にもなるキャリア各社が金融・決済連携の料金プランに注力している背景には、派生事業を伸ばせるだけでなく、通信側の解約率を下げられる効果もあるからだ。特にKDDIやソフトバンクは、新規獲得を重視する方針からの転換を図っている。
松田氏は、決算説明会で「他社の過熱気味な販促コストを使う形の競争に真っ向から対抗している意識はない」としつつ、「どちらかというと、商品力の競争ということで価値を高めている」と語る。「ライフタイムバリューを意識した構造改革に取り組んでいる」というが、マネ活2のような料金プランもその一環だ。他社が、こうした形の連動料金をさらに強化していく可能性もある。
銀行連携の強化という点が新しいマネ活2だが、条件がauじぶん銀行だけではない点は少々気になった。特典の条件を子細に見ていくと、ゴールドカードの獲得を増やしたいKDDIの思惑も見え隠れする。1つ目の預金残高に応じた特典は、au PAY ゴールドカードの保有者であることが条件。3つ目の決済連動特典も、ノーマルカードでの決済や、ゴールドカードがない状態でのau PAYは還元率が1%まで下がる。
ゴールドカードがなければ、最大550円のキャッシュバックが受けられないだけでなく、決済特典の上限に達するために必要な支払いも25万円に上がる。提示されている実質負担額で使うには、ゴールドカードの保有が半ば必須になるというわけだ。au PAY ゴールドカードの会員数は、9月末時点で172万会員。dカードGOLDが1000万契約を超え、PLATINUMも100万会員を突破したドコモと比べると、その規模はまだまだ小さい。プラン変更しただけで恩恵を受け切れるユーザーも少なくなる。
マネ活2の特典を受ける条件になっているのは、au PAY ゴールドカードの伸びを加速させる側面がある一で、ゴールドカードを持たなければ安くならないとなると、マネ活2自体の選択をためらうユーザーが出てくることも考えられる。他社が料金プランとゴールド以上のカードのひも付けをここまで強力にしていない中、銀行とゴールドカードの二兎を追う戦術が吉と出るか凶と出るかは未知数といえそうだ。
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