5G SAになることでどのようなメリットがあるのか。通信速度は使っている帯域幅に左右されるため、NSA(ノンスタンドアロン)と比べて劇的に速度が向上するわけではない。また、5G SAならではの機能も、現状では一般コンシューマーにはあまり提供されていない。ソフトバンクではネットワークスライシングも導入しているが、その用途は「法人向けのプライベート5G」(同)に限定されている。
一方で、5G SAになるとシステムがよりシンプルになり、スループットや応答速度の向上が見込めるという。ダウンロードの平均スループットは5G NSAが109Mbpsなのに対し、5G SAは169Mbps。エンドツーエンドの応答時間は5G NSAの417msから、334msまで短縮できるという。また、実際に5G SAを導入した東京ディズニーランド付近の舞浜エリアでは、接続した端末の通信ログが10倍に増加。応答速度も他社と比べて大幅に短くなり、品質で他社を大きく上回ることができた。
大矢氏によると、この5G SAを支える鍵になっている技術は大きく分けて4つあるという。1つ目が、4Gのころから一般的になっているキャリアアグリゲーション(CA)だ。CAとは、異なる周波数を束ねて使う技術のこと。現在、ソフトバンクの5G SAでは最大5バンド、計215MHz幅でのCAが可能だという。「瞬間的なスループットを上げられるし、束ねた周波数を複数の方でシェアしながら使うのでロードバランスが取れる」(同)のがCAのメリットだ。
ただ、CA自体は他社も導入している一般的な技術で、差別化にはつながらない。ソフトバンクならではの要素が、「C-RAN」と呼ばれる基地局構成を幅広く展開していることだ。C-RANとは、無線の制御部分を集約し、異なる場所に設置した複数の基地局を協調動作させる仕組みを指す。対応する周波数が多くなると、アンテナは大型化するため、設置場所が限られてくる。これに対し、C-RANであれば特定の周波数に対応した基地局を分散させ、集約した制御装置側でCAをかけることが可能になる。
これが、「CAを有効活用するアーキテクチャの鍵になる」(同)という。この構成であれば、あまり電波の飛ばない高い周波数の基地局を密に配置し、広い範囲をカバーする基地局の周波数とCAさせることもできる。ソフトバンクがこれをできたのは、「TD-LTEを導入した際に、C-RAN構成にすることを最初から決めていたのが大きい」という。当時CTOだった宮川氏が陣頭指揮を取り、この技術を導入したことが、現在でも同社の優位性につながっているという。
また、意識的に上りの通信を強化していることも、快適なネットワークにつながるという。5Gで使うTDD方式の周波数はFDDに比べて高く、送信出力の弱い端末からだと届きにくくなってしまう。この状態だと、下りがつながっていても通信が不可能になる。そこでソフトバンクは、FDDとTDDをCAで束ね、上りにより周波数の低いFDDを使うことで下りの通信を可能にし、なおかつ速度を向上させた。
これによって、「ギリギリ届かないような場所で30倍ぐらいにアップリンクの速度を上げることができ、実際のエリアも50%拡大できる」。上りの対策は端末側にも施しており、HPUEと呼ばれる技術に対応することで送信出力を向上させている。CAとHPUEの両方を使い、アップリンクを快適にすることで実質的に5G SAで通信できるエリアを広げているといえる。これが大矢氏の語っていた2つ目の鍵だ。
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