3つ目の鍵になるのが、ソフトバンクが4Gのころから展開していたMassive MIMOだ。これは、多素子のアンテナで基地局あたりの収容量を増やすためのもの。通常のMassive MIMOに加え、「細かく同時に存在する端末にビームを当てる」(同)マルチユーザーMIMOを導入することで、キャパシティーを2.7倍に増強。さらに、3.4GHz、3.5GHz、3.9GHzの3周波数帯に対応した小型の無線機を導入し、「本格的に拡大していく方向で進めている」(同)。
4つ目として大矢氏が挙げたのが、AIの活用だ。「CAの最適化やカバレッジ最適化のシステムは開発済み。今まではルールベースで個別に動いていて、その間のチューニングは人がやっていた」(同)。CAの組み合わせなど、パターンが多岐にわたるものをAIに任せることで最適化しやすくなる。また、「劣化している場所や体感が悪い場所を見つけるシステムがあり、AIを活用することでより細かい粒度で対策でき、サイクルを短くできる」(同)。
こうした品質劣化の検知や改善には通常、1週間から1カ月程度の時間を要していたが、AIを活用していけば「数分のレベルで改善でき、ネットワークの品質を上げていくことができる」(同)。これらは今後の実装になるが、最終的には、全て自動化することを目標に取り組んでいるという。
また、局所的にネットワークが混雑するイベント会場などでは、ミリ波を活用する。ただし、現時点ではミリ波を直接つかめる端末は、ハイエンドモデルのごく一部に限定される。そこで、ソフトバンクではミリ波を受け、Wi-Fiに変換するルーターを導入する。これによって、幅広い端末がWi-Fi経由でミリ波に接続できるようにしていく。
5G SAを早期導入するソフトバンクだが、これを生かし、5G上で音声通話を行う「VoNR」や、IoT向けの通信スペックを抑えた「RedCap」を導入するなど、サービス面でも差別化を図っている。例えば、VoNRはLTEのVoLTEに落とさなければならない場合と比べて、よりスムーズな発着信が可能になるという。VoNRをいち早く始めたのは「音声が(5G SA上で)できる環境を整えないと、体感が落ちてしまう」(同)という背景があるという。
ただ、屋内の対策は必ずしも思い通りに進んでいないこともあるという。こうした場所では「ビルオーナーの都合もあるし、置ける設備も限られていて、最近ではインフラシェアリングも増えている」(同)からだ。特に、奥まった場所は「周波数が届かず、どうしてもLTEに落ちてしまうことがある」(同)という。
ここまで挙げてきた対策は、いずれも都市部で比較的トラフィックが多いエリアの通信品質を上げていくものだが、エリアの広さにも課題がある。実際、冒頭で挙げたOpensignalのデータでも、ソフトバンクは広さを示す指標ではドコモやKDDIに及んでいない。こうした場所は、「基地局が足りていないところもあれば、伝送路がなく、細い帯域でしかつながらなかったり、高額になったりする」(同)ため、対策が難しい側面もある。
とはいえ、「そこも広げていきたい気持ちはもちろんある」(同)といい、エリアの広さにもこだわっていく方針だ。インフラシェアリングの鉄塔や、KDDIと共同で実施している「5G Japan」を使い、エリアのさらなる拡大も検討しているという。品質面での評価が高くなってきたソフトバンクのネットワークだが、その品質をより広いエリアに広げていけるかも問われているといえそうだ。
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