ソニーからスピンアウトしたスタートアップのaugment AIが、スマートウォッチ「wena」シリーズの後継モデル「wena X(ウェナ クロス)」を発表。3月20日にGREEN FUNDINGでクラウドファンディングを開始したところ、開始4分で目標金額の1000万円を達成し、開始40分で支援金額1億円を突破した。
wena Xは、スマートバンドと腕時計が一体となったウェアラブルデバイス。好きな時計のヘッドを取り付けることでスマートバンド兼腕時計として利用できる。時計のヘッドを着けずにスマートバンド単体で使ったり、バンドを取り外して交換したりすることもできる。センサーやチップ、基板、バッテリーなどの部品をバックルに搭載し、バックルとバンドを取り外せる仕様にしたことで多様な使い方を実現している。
こうしたコンセプトは先代の「wena 3」から継承しているが、wena Xではバックルをワンタッチで取り外せるようになり、使い勝手を向上させた。また、アンテナを内蔵せず外装の金属で代用する、心拍センサーを本体内に埋め込む、バッテリーを小型化するなどの工夫で、モジュールの小型化にも成功。1型以上のフルカラーディスプレイを搭載する主要メーカーのスマートウォッチと比較して「世界最小」をうたう。
ソニーは2026年2月にwena 3のサポートを終了し、wenaシリーズは終息したかに見えたが、会社を変えて復活を果たした。augment AIはソニーからwenaの商標や特許を引き継ぎ、wenaの事業を継続していく。
では、なぜwenaの事業は復活したのか。augment AIは、wenaの発案者でもありソニー時代にwena事業を率いてきた對馬哲平氏が立ち上げ、代表取締役を務めている。wenaの復活は、對馬氏の強い思いがあってこそだった。
「残念ながらwena3で事業としては終了することになったが、お客さまからいろいろな惜しむ声をいただいた。『後継機を出してほしい』という声もSNSで挙がっていて、修理拠点にも同様の声が入っている。wenaは万人受けするものではないニッチな商品だが、お客さまからは愛着を持って使っていただいている。その思いに応えたいので、独立起業の決意に至った」(對馬氏)
それでも、ソニーのような大手メーカーが終了したサービスを、在籍していた社員が独立し、別会社を立ち上げて事業を継続するというのは異例だろう。何がそこまで、對馬氏を突き動かしたのだろうか。
「wenaは私が新入社員のときに立ち上げた事業で、今まで10年ほど関わってきた。私の社会人人生は本当にもうこれしかないというほどで、人生の一部でもあり、子どものような存在。どうしても諦めきれない思いを強く抱いていたが、自分だけがそう思っていても意味がない。そんな中、お客さんから継続してほしいという声をいただいて、リスクはあると思うが、『人生を賭けてやってみよう』と思い、起業した」(對馬氏)
今回のクラウドファンディングでは多額の支援が集まっているものの、今後、wena Xの一般販売を開始し、ウェアラブル事業を継続していくには高いハードルが存在する。
日本のスマートウォッチ市場ではAppleがシェア50%以上を誇り、そこにHuaweiとXiaomiが追随している。MM総研が発表した「2024年度通期 メーカー別スマートウォッチ販売台数/シェア」では、これら3社がシェアの約4分の3を占めている。Appleのシェアトップはwena 3までの時期から変化はないが、HuaweiやXiaomiは、ここ数年で急速に存在感を増しており、1万円未満の安価なスマートバンドも多数投入している。さらに、Googleの「Pixel Watch」やサムスン電子の「Galaxy Watch」などのWear OS勢も存在し、多くの競合がひしめき合っている。
ソニーは、ソニーモバイルコミュニケーションズ時代の2014年に「SmartWatch 3」「SmartBand Talk」というウェアラブル製品を発売したが、これらの後継機は登場していない。その後、2016年にソニーの社内ベンチャーからwenaシリーズが誕生したが、2026年2月にサポートを終了。ソニーは事実上、スマートウォッチ市場から撤退している。
ソニーがwenaシリーズを終了した背景について對馬氏は「答える立場にない」としながらも、「事業を総合的に勘案した結果、終息することになった」と述べるにとどめる。その上で、augment AIがwenaシリーズを継続する勝算について、以下の通りに話す。
「大企業で事業を継続するには固定費がかかるが、弊社はスタートアップ。小さな8畳ほどのオフィスに、(社員の)6人がギリギリ座れるようなところでなので、固定費や配布費用がかからない。そういう意味では、売り上げも成り立たせられると考えている。小さなチームでニッチな市場だが、お客さまに愛情を持って使っていただけるものを提供していきたい」
wenaのような“異端児”的なビジネスを、ソニーのような大企業で続けることの難しさもあったようだが、小回りの利くスタートアップの方が、wenaのようなとがった製品は展開しやすいということだ。
競合に対する強みについては「圧倒的に小さい」ことを挙げる。「小さいことは、身に着けて長く使う上で有利だと考えている」と對馬氏。また、スタートアップのACCELStars(アクセルスターズ)と提携して強化した睡眠解析機能や、130種類以上のエクササイズに対応するスポーツモードも強みに挙げる。
素材についても差別化を図った。「他社のスマートウォッチはアルミニウムや樹脂を採用しているものが多いが、wena XはステンレスのSUS316Lという素材を使っている」と對馬氏。ディスプレイを含めたモジュール全体が曲面になっており、ハードウェアの独自性にもこだわった。
なお、augment AIは、wena Xの開発と量産に向けて、シードラウンドにて総額1億7000万円の資金を調達した。このシードラウンドには、ソニーグループや事業会社、エンジェル投資家が参画している。ソニーグループは、augment AIに譲ったwenaの事業を間接的に支援していることが分かる。
さらに、wena X発表時のニュースリリースには、ソニーグループの代表取締役 社長 CEOの十時裕樹氏が、以下の通り、応援のコメントを寄せている。
このたびwena事業に携わってきたチームが、新たな挑戦へ踏み出されることを嬉しく思います。wenaが創出した、腕時計とテクノロジーを融合させる価値が、スタートアップの機動力とともに進化していくことを期待しています。ソニーとしても、これまで培ってきたものづくりの精神が次のステージで飛翔することを心より応援しています。
一見すると異例のように思えるが、wenaの事業はもともと、ソニー(現ソニーグループ)が社内の新規事業を支援する「Sony Startup Acceleration Program」の一環で生まれたもの。独立して別の企業としてサービスを提供することを想定していたと考えても不思議ではない。
元ソニーの「wena X」、クラウドファンディング開始40分で“支援金額1億円”を突破
スマートウォッチ「wena」復活、「wena X」発表 腕時計とバンドをワンタッチ切り替え、先代から全長8.5%小さく
ソニーのスマートウォッチ「wena」は終息を迎えるのか その背景と後継機の可能性を考える
スマートウォッチ「wena 3」登場 SuicaとAlexa対応、バックルに機能を集約
「wena wrist」のバンドでお気に入りの腕時計をスマートウォッチ化させてみたCopyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.