現行の携帯料金プランは「国際的に遜色ない」と林総務大臣 国はまたキャリアに“値下げ”を求めるのか

» 2026年05月22日 21時44分 公開
[金子麟太郎,ITmedia]

 物価高騰や通信インフラの維持・整備コストの増大を背景に、携帯電話大手各社は「値上げの局面」を迎えている。こうした中、5月22日に行われた閣議後記者会見において、林総務大臣が携帯電話料金について言及した。総務大臣が携帯電話料金の価格水準に対して直接的な見解を示すのは、昨今では久しぶりのこととなる。

 林総務大臣は記者から、CPI(消費者物価指数)などの上昇に伴い家計負担が大きくなっている現状を踏まえ、「5年前の菅政権時のように値下げを求める動きをするのか」と問われた。これに対し林氏は、「昨今の携帯電話料金は、物価高騰の影響や付加サービスを組み込んだプランの登場でやや上昇傾向にある」ことを認めつつも、「全体としては大きな上昇は見られず、国際的にも遜色ない水準となっている」と回答した。

NTTドコモ KDDI ソフトバンク 楽天モバイル 物価高騰や次世代通信網への投資コスト増大を背景に携帯キャリア大手が値上げを検討する中現状の価格水準に対して総務大臣が見解を示した

 その上で、今後の料金低廉化については「市場における競争を通じて実現することが重要」と強調した。昨年12月に設置した有識者会議で現在の市場環境や規制の効果を検証中であり、本年夏頃をめどにとりまとめられる結果を踏まえ、競争促進に向けた必要な取り組みを進めると述べるにとどめた。政府として強権的な「値下げ要求」を行う姿勢は見せなかった形だ。

NTTドコモ KDDI ソフトバンク 楽天モバイル 林総務大臣閣議後記者会見の概要より携帯電話料金に関する質疑応答パートを抜粋

 総務大臣が携帯料金に直接言及した背景には、ここ最近の通信業界における激しい環境変化や物価高騰がある。2025年、楽天モバイルは「値上げしない宣言」を行っていたが、同業他社であるソフトバンクの宮川潤一社長からは「(コストの掛かる地方整備を)ローミングに頼りながらの宣言はアンフェアだ」と批判の声が上がっていた。

 そして2026年5月に入ると、NTTドコモの前田義晃社長が「全体としてどのように価格改定をしていくかは考えなければいけない状態」と将来的な値上げ検討を明言。KDDIの松田浩路社長も「値上げありきではなく価値づくりありき」と含みを持たせ、楽天グループの三木谷浩史会長兼社長でさえ価格戦略の明言を避けるなど、業界全体が明確に値上げの方向へ舵を切り始めている。こうした動きの中で、林氏の口から現状の料金水準を容認するような発言が出たことは非常に意義深い。

 振り返れば、約5年前の2020年から2021年にかけては、政府による「官製値下げ」の大号令が吹き荒れていた。その急先鋒(せんぽう)に立っていたのが、当時の武田良太総務大臣だ。武田氏は異例ともいえる頻度と激しい言葉で、携帯キャリアの姿勢をことごとく糾弾し続けた。

総務省 記者会見 5年前の武田良太総務大臣による強硬な官製値下げの大号令の時代から現在の林総務大臣による市場競争を重視するスタンスへの変化が見て取れる。画像は2020年11月27日の定例記者会見で資料を示しながら問題点を指摘した武田良太総務大臣

 例えば2020年11月、KDDIとソフトバンクが多くの利用者を抱えるメインブランドではなく、サブブランドでのみ割安プランを発表した際には、「羊頭狗肉という言葉が適切かは分からないが、形だけの割安プランではまったく意味がない」と痛烈に批判。KDDI社長の「すぐには値下げに応じられない」という発言に対しても「非常にがっかりした」と不快感を示した。

 さらに、乗り換え時の高額な各種手数料や旧プランの解約金を巡っては、「囲い込み策だ」「まやかし」「表のきれい事ばかりで国民を欺いている」と一刀難。2021年3月に解約ページを検索エンジンでヒットさせない設定(検索回避)が発覚した際にも、「自社都合ではなく利用者目線に立て」と厳しく叱責(しっせき)した。武田氏の度重なる強力なプレッシャーが外堀を埋め、結果的にMNP手数料の無料化や解約金の撤廃、そしてNTTドコモの「ahamo」をはじめとする低廉な新料金プランの誕生へとつながっていった。

 武田氏が、事業者の経営方針にまで踏み込み、トップダウンで強引に障壁を打破していったのに対し、現在の林総務大臣はあくまで「市場環境の整備」と「事業者間の競争」に委ねるボトムアップのスタンスを取っている。

 5年前の劇的な「値下げ劇」を経て、日本の利用者はahamoやpovoなどで低廉な通信環境を手に入れたといえる。しかし、インフレの波と次世代通信網への投資という現実的な課題がキャリアの経営を直圧しているのも事実であり、かつてのような強権的な値下げ要求の再来は難しいだろう。

 総務省が2026年夏に予定されている有識者会議のとりまとめにおいて、総務省が値上げの波を前にどのようなかじ取りを示すのか――今後の動向が注目される。

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