「これこそVAIOだね」というアイデンティティ――VAIO 10年の歩みとこれから青山祐介のデザインなしでは語れない(3/3 ページ)

» 2007年05月25日 11時00分 公開
[青山祐介,ITmedia]
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PCの新しい使いかたを提案していくのがVAIOの使命

 VAIO type Tに限らず、歴代のVAIOノートPC(XR/SR/C1/GT1/U1/U3/type U/type T TXなど)のデザインに関わってきたのが、VAIOデザインスタジオのチーフアートディレクター 小笠原氏だ。今回のVAIO type Tでも、担当デザイナーの井関氏はVAIOノートのデザインポリシーについて、微に入り細に入り小笠原氏からアドバイスを受けながらデザインワークを進めていったという。そんな小笠原氏に、VAIOデザインの10年について語ってもらった。

小笠原 VAIOはソニーがPCに再参入するというときに、お仕事的なPCとしてではなく、AVとITとの融合を目指してエンターテインメントの新境地を切り開いてゆく、ということで始まりました。中でもノートPCでVAIO黎明(れいめい)期にいち早く新機軸の原型を作ったVAIOノート505は、シルバーパープルのボディカラーで“銀パソ”というトレンドを作りました。そういう点でもVAIOというコンセプトを表明した非常に完成度の高い、画期的なモデルだと言えます。

 また、いかに新しいメディア、楽しみを膨らませるかという意味では「VAIO C1」があり、もっと小型にという意味を込めて「ウルトラモバイル」ということでは「VAIO U」を生み出し、パフォーマンスを上げるために「VAIO XR」で「インタークーラーフラップ」という特徴的な表現で新たなスタイルを作ったりするなど、VAIOの中でいろいろな提案をしてきました。用途をもっと広げていきたいという意味では、「VAIO W」のように立てて置いたときにスリムで場所をとらず、使おうと思ったらキーボードが出てくる、といった新しいスタイル打ち出し、これをボードPCの「VAIO type L」でさらに先鋭化させました。このように新しいPCの使いかたを打ち出していくというのが、VAIOシリーズが持つ最大の使命、存在意義だと思って、日々デザインに取り組んでいます。

いずれも小笠原氏がデザインを手がけたVAIOシリーズで、左から「VAIO C1」「VAIO type U」「先代type T(TX)」だ。なお、7月1日まで銀座のソニービルで歴代のVAIOシリーズが展示中だ

 このように、VAIOはそれぞれのモデルで明確なコンセプトを持ち、新しいスタイルを提案し続けてきた。そんな中でも小笠原氏の思い出深いモデルは、2000年5月に登場した「VAIO NOTE SR」だという。パームレスト部分を「エンターテインメントゾーン」、液晶ディスプレイとキーボード部分を「PCゾーン」に分けるなど、ノートPCのデザインに新風を持ち込んだモデルだった。

小笠原氏が最も思い出深いモデルという「VAIO NOTE SR」

小笠原 VAIOノート505が出た後、VAIOファンとしては「505の次はあのスタイルでもっと薄くなるだろう」と期待するわけです。ところが、CPUの性能がどんどんよくなる半面、消費電力も増えてバッテリーを小さくすることができないなど、VAIOノート505のプロポーションを維持するのは難しくなってきました。そのような中で、いち早くメモリースティックを生かしたパーソナルオーディオ・コンセプトとして新しいスタイルを打ち出すことを考えました。そこで、逆ヒンジ方式を採用することで、ヒンジ機構を見えなくして、要素としては本当にキーボードと液晶ディスプレイ部分が軽快に重なって開いてくる/見えてくるというところに、機能的な美しさを表現してみようと思ったのです。

 もう“パソコン”って言われない使いかたをして欲しいという思いを込めて、キーボードとパームレストのデザインを分離するといった、思い切ったことをやったモデルが「VAIO NOTE SR」でした。結果として「面白いね」っていう反響と「なんでVAIOなの?」といった、さまざまな反響があって、今思うと非常に思い出深いモデルでしたね。


見ためだけではなく機能美を追求するVAIOのデザインポリシー

 新しいモデルが登場するたびに、見るものに強いインパクトを与えるVAIO。それぞれの時代に先鋭的なスタイルをまといながらも、決して見ためだけではない使いやすさを持ち合わせている。

小笠原 デザインは新しい技術をどう応用していくかということと、技術開発を先導するビジョン作りが大きな使命だと思います。ただ、そこで特徴的な見ためを備えているだけというような、表層だけでものを考えるのではなく、その裏にある機能を果たすために理由があってそういう姿になっているということを心がけています。機能を正しく表現してこその機能美であり、VAIOのデザインに最も必要なことだと考えています。

 とくにVAIO type Tについては、VAIOノートの魂のようなものです。ちょうどVAIOが10年めという時期にVAIOノート505の再来というモデルだったため、井関にはデザイン段階からいろいろなことを要求して叱咤激励をしてきました(笑)。10年を迎えたVAIOのデザインのこれからは、今まで以上に、表現されている「これこそVAIOだね」というアイデンティティが、もっと明確になるような舵取りをしていきたいと思っています。決して過去の名作の焼き直しをするのではなく、ライフスタイルを変えたり新しい時代を作るようなPCを求めて、新しいアプローチや表現にチャレンジしていきたいですね。

 最後に小笠原氏、井関氏に自分自身にとってVAIOのデザインとは何かをうかがった。

井関 私がまだVAIOに携わる前にVAIOブランドは立ち上がりました。VAIOが世に出たころはまだ学生でしたが、そのときに感じたVAIOのブランドの感動や憧れといったものを大事にしたいですね。当時は、お金がなくて買えない、けれどもとても欲しかった。電気屋さんに何度も足を運んでVAIOを一生懸命見て触っていた感覚を、自分が今デザインをする立場になっても忘れないでやっていきたいなと思います。

小笠原 やはり“イマジネーション”でしょうか。ソニーの中でもさまざまな商品カテゴリーがありますが、パーソナルコンピューターというITを使った商品というのは、時代時代でどんどん変化・進化して、用途の可能性などが増えていきます。そのような中で、デザインという仕事は、さまざまなチャレンジができたり、アイデアを出す価値がある、出して行きたくなるカテゴリーです。ネットワーク時代の新たな道具観を発想してゆくことは難解でもありますが、豊かなイマジネーションを発揮すれば、極めてエキサイティングな達成感を得ることができます。

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