「思わず褒めたくなる」中国のVAIO山谷剛史の「アジアン・アイティー」(2/2 ページ)

» 2007年12月20日 11時30分 公開
[山谷剛史,ITmedia]
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ソニーのVAIOで考える中国PC市場

ソニー中国でVAIO産品部総監を務める荒木一豊氏

 筆者は、こういう中国PC市場におけるソニーの行動を観察して、「なぜWAPIモデルをソニーが率先して開発したのか」「政府が独自規格を推奨する中でBlu-ray Discドライブ搭載モデルを出荷して大丈夫なのか」という疑問を感じていた。そのあたりのソニーの考えをソニー中国コンシューマーエレクトロニクス営業本部VAIO担当のトップ(消費電子営業本部VAIO産品部総監)である荒木一豊氏に聞いてみた。

──VAIOは日本と同じモデルを中国でも出荷しているようですが、中国向けということで、例えばFeliCaポートなどの日本でしか利用できないデバイスは変更していたりするのですか。

荒木氏 はい、中国ではFeliCaポートは省いて出荷しています。商品を出すタイミングは全世界同時でやるようにしているので、設計はどの国向けのモデルでも同時にスタートします。ただし、経済水準や技術規格が国によって異なるため、CPUやシャーシなどのハードウェアコンフィグレーションが国ごとに異なります。FeliCaポートも中国では使えないので省いているわけです。

 ユーザーの持っている感性が国ごとで異なり、CPUでもユーザーが好む傾向が変わります。その国でリリースされる製品はそういったニーズの違いを反映してきた結果なのです。ただ、その一方で、コアマイクロアーキテクチャのような最新技術も搭載していきたい。CPUだけでなくSSDにしてもそうです。最新技術を導入して可能になることをユーザーにアピールしていきたい気持ちもあります。

──VAIOシリーズでは、多数のソフトウェアをPCにインストールしています。これは中国のメーカー製PCでは非常に珍しいケースですが、ユーザーの反応はいかがですか?

荒木氏 とくに不満は寄せられていないですね。ソリューションを提供することにおいて、ソフトウェアの役割は重要です。例えば、キングソフトの中国語翻訳ソフト「金山字覇」をプリインストールしていますし、Microsoft Officeの期間限定版をVAIOの一部機種に導入しています。これは中国初のケースかもしれません。中国のユーザーで特に好評なのが静止画などを加工するソフトですね。また、VAIOアップデートも非常に好評です。初心者が増えている中で、サポートを重視しているユーザー層が増えているのを実感しています(筆者注:中国ではPC本体を販売したらそれっきり、サポートはしない、ドライバもヘビーユーザーでないとアップデートの方法が分からないというのが“普通”なのだ)。

──日本のメーカー製PCでは当たり前となったTV録画機能は組み込んでいますか?

荒木氏 それも省いています。日本のような“番組を録画する”習慣が中国にはありません。日本と同じ構成ではどうにもならないものもあります。中国のユーザーにはそれが付加価値として評価されないのです。

──「VAIO Media」など、ソニーのAV製品とリンクするソフトウェアがありますが、中国のユーザーは利用しているのでしょうか?

荒木氏 今のところ独立した「PC」としてのみアピールできている状態です。ソニーユーザーだけでなく、PCとAV機器の連携で可能になる使い方に興味を持つユーザーを増やしていきたいという気持ちはあります。必要のないアプリケーションは搭載できないけれど、VAIO Mediaはいろいろな楽しみ方ができるので、VAIO Mediaを通してスタンドアロンのPCだけで使うのではなく、ほかのデバイスとリンクして、もっと新しいライフスタイルをつくる、これを“デマンドクリエーション”と呼んでますが、それを進めていきたいと思っています。

──中国でBlu-ray Discドライブを搭載したノートPCを出荷して、特に問題はありませんか?

荒木氏 規制について確認をしたうえで出荷しているので大丈夫です。ソニーとしてはほかのモデルにも、次世代のハイビジョン関連規格を搭載していくつもりです。

──その一方で、中国独自の無線LANセキュリティ規格である「WAPI」に対応したノートPCをリリースした背景は?

荒木氏 ビジネス市場のユーザーからWAPIを使いたいというリクエストがいくつかあって、ならば、特注でなく普通のラインアップとしてリリースしようということになりました。

──WAPI対応ノートPCは、ソニーの技術力をアピールするのが目的ではなく、まずは、ユーザーの要望があったわけですね。

荒木氏 そういうことになりますね。

上級職から学生までを視野に入れた中国VAIOノート戦略

──VAIOの価格は比較的高いので、ThinkPadと同じように、企業や官公庁の上級職が特に好んで使っているように感じます。中国においてVAIOは「仕事ができる人のためのPC」というイメージなのでしょうか。主なユーザー層はそういった人たちになりますか。

荒木氏 確かに、VAIOの実売価格は高く、かつては会社の中枢とか役員が主なユーザー層でした。そういった人にVAIO X505とかVAIO type Uとかが受けましたね。VAIOが最初に中国で発売されたのが2001年11月で、デビュー機種は「GR」と「R505」でした。それらはほかの国でも好評だったモデルなので、中国市場に登場したときのインパクトはかなりありましたよ。当時の実売価格が3万元(現在のレートで約45万円)で、誰が買えるのか、という値段でしたが。その後、いろいろなユーザー層の要求に応えようとラインアップを広げて、6988元(10万円強)の低価格モデルを出してから学生ユーザーからも支持されるようになりました。

──今では多くの中国メーカーが3999元(約6万円)という低価格ノートPCをリリースしています。ソニーもそこまでやりますか。

荒木氏 それはちょっと難しいですね。PCは、スペックと価格で比べられるものではなく、CPUとHDDなどの基本スペック以外の部分、例えるならソニーのクラフトマンシップというものを、どうやって伝えられるかなんですよね。ユーザーと接するときに、いろんな意味でVAIOは、ただのPCじゃないことを伝えていきたいと思っています。結果的にユーザーに喜んでいただければ嬉しいかなと。

──VAIOノートPCの主な購買層と市場を教えてください。

荒木氏 内陸部の省都クラスまでは大きな市場と捉えており、今後ビジネス、パーソナル両方で伸びてくると見ています。ただ、省都に続く2番手3番手くらいの都市になるとまだまだこれからの市場と見ています。

──中国におけるVAIOノートPCのニーズとは突き詰めるとなんでしょう?

荒木氏 VAIOノートPCといってもいろいろなモデルがあるので一概にはいえませんが、それでも、基本スペックを踏まえたうえで軽くて頑丈というのが、1つあるでしょうし、VAIO TZ(日本のVAIO type T)のように消費電力を抑えてバッテリー駆動時間が長いことが評価されていることもあります。あとはデザイン、カラーバリエーションによって、所有する喜びが感じられることも挙げられます。これは、中国のユーザーだけでないかもしれませんが、人と違うものを所有したいという気持ちを持つユーザーが多く、そのおかげで、VAIO CR(日本のVAIO type C)のカラーバリエーションはとても好評でした。

──日本で販売されている本体専用のPCバッグが中国では売られていないようですが。

荒木氏 リリースしていますがそれほど多くは売れていません。中国のユーザーには価格が高いということもあります。日本で売れるものをそのまま中国に持ってきてもそのまま売れるわけではない、という事情は、PCバッグでも一緒で、その国にあった価格帯を考えなければいけません。ただ、中国のユーザーはメーカーロゴを付けたグッズを普通に持ち歩いています。バッグのプレゼントキャンペーンを何度か行いましたが、いずれも好評でした。

──中国で今後、デスクトップPCモデルをリリースする予定はありますか?

荒木氏 VAIO type Lは“ボードPC”で“デスクトップPC”でないと考えると、確かに中国ではデスクトップPCをリリースしていないということになりますね。それで、あくまで現時点での話ですが、今のところデスクトップPCを中国で出荷する予定はないです。でも、中国の市場に需要があって、ユーザーがエンターテイメントをPCで楽しめるような状況になれば、中国でもリリースする可能性はあります。ボードPCも、家の中でPCを持ち運ぶ需要の調査を中国で行い、日本で発表された半年後にリリースしました。


 ソニーが考える“中国市場向けのVAIO”とは、日本のモデルをそのまま持ち込むのではなく、中国ユーザーのニーズに合わせた仕様でリリースし、そのうえで、単なる基本スペックにとどまらない、「VAIOらしい使いかた」を中国のユーザーに提案するというものだった。

 中国のIT関連メディア「中関村在線」が2007年11月に公開したノートPCメーカーの人気調査によれば、1位:HP(21.1%)→2位:レノボ(16.6%)→2位:デル(14.6%)→4位:ASUS(12.6%)→5位:ThinkPad(中国ではレノボではなくThinkPadという独立したブランドとして認識されている)(6.8%)→6位:ACER(5.8%)→7位:神舟(5.1%)、そして8位にソニー(3.6%)が続く。ちなみに日本勢は9位に東芝(2.8%)、14位に富士通(1.0%)が入っている。

 この調査の結果からは、今の中国でコストパフォーマンスを重視したモデルを多数投入しているPCメーカーに人気が集中する状況がうかがえる。しかし、今後、中国が豊かになったときに、ソニーをはじめとした日本メーカーが“ThinkPad”とともに上位にランキングする日が来る可能性は高い。ソニー中国が高付加価値モデルを積極的にリリースする背景には、中国が豊かになったときにシェアを確保するために「イメージの種まき」をしているように思えた。

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