ACERは、Gateway、emachines、Packard BellとPCベンダーを合併して成長する方針を重視している。その合併によるメリットを生かした「マルチブランド」戦略についてはすでに全世界向けに発表しているが、全世界と比べて“特殊事情”が多く、海外ベンダーのマーケティング担当が頭を悩ませている日本では、どのように展開していくのだろうか。
日本の関係者に向けて行われたマルチブランド戦略の説明会では、ACERでマーケティングとブランド戦略を担当する上級副社長のジャンピエロ・モルベーロ氏がワールドワイドにおけるACERのビジネス成果とPC市場の動向を紹介し、日本エイサー マーケティングコミュニケーション課マネージャーの瀬戸和信氏が、日本におけるマルチブランド展開に関する説明を行った。
モルベーロ氏は、一般的な消費財となってきたPCは、もはや技術だけで進化するのではなく、また、ユーザーはスペックではなくもっと生活に密着した視点でPCを選ぶようになったと述べたうえで、現在、PC市場で順調に伸びているのはノートPCであることを、2008年上半期のデータを示しながら紹介した。そのようなPC市場でACERは2004年から、ノートPC市場に限っては2002年から急激に成長しているが、その理由としてモルベーロ氏は、ACERが2001年からPCの生産をアウトソーシングして、PCそのものをキーアセットとして認識してきたことと、研究開発に積極的に投資してきたことを挙げた。
ACERは、アジアだけでなく、北米、中国、欧州といった、PC市場の規模が大きく、高い成長を見せているエリアにおいて、ランキングの上位に位置している。その原動力となっているのが、ビジネスモデルを核として連動しているデザイン、品質、そしてブランド力であるとモルベーロ氏は説明する。
ブランド力を高めるためにACERが進めているのがマルチブランド戦略だ。そのシナリオとしてモルベーロ氏は、ごく同じ普通の消費財となったPCでは、コンシューマーユーザーの購入プロセスが従来と異なって、テレビなどの家電と同じようになってきていると指摘し、低価格化が進み価格帯が同じ製品であれば、ユーザーのセグメントごとに最も利用しやすい方法で購入するようになるため、1つのブランドではすべてのマーケットをカバーできなくなるとしている。そのため、ACERでは、ユーザーのセグメントごとに適切なブランドを用意する「マルチブランド」戦略を進めることになったという。
ACERでは、コンシューマーユーザーのセグメントをブランドイメージと製品に導入されている技術とでHigh、Lowに分けたマトリックスを作成し、acerブランド、そして合併したemachines、Gateway、Packard Bellのそれぞれを、そのマトリックスで最も適切なブロックに向けて展開すると説明している。
それによると、emachinesは導入されている技術は最新ではないバリューブランドのイメージ、GatewayとPackard Bellは最新技術を導入していないが高いブランドイメージを有する。そして、acerは技術もブランドイメージもミドルレンジのポジションからブランドイメージ、導入技術がともにトップエンドとなるポジションまでを広くカバーすることになっている。
ACERは、さらにユーザーのプロファイルと住んでいるエリアの違いを考慮してコンシューマー市場を分類し、そのそれぞれにも、適切なブランドを割り当てている。ユーザープロファイルは以下の6タイプに分類される。
(1)最先端技術に対するリテラシーが高く収入も多い「Techno Leader」
(2)技術に対するリテラシーは高いが収入はそれほど多くない「Techno Rational」
(3)最新技術には慎重だが専門家の意見は受け入れる「Conventional」
(4)最新技術には積極的だが導入コストも重視する「Practial&Value」
(5)技術に対するリテラシーは低いが導入コストは重視する「Simple&Easy」
(6)技術に対する興味はあまりないが、デザインや流行に敏感な「Trendy」
ACERでは、Techno Leader、Techno Rational、Conventionalのユーザーに対してはacerブランドを、Trendy、Simple&Easyのユーザーに対してはGateway(欧州ではPackard Bell)を、Practical&Valueのユーザーに対してはemachinesをそれぞれ適用させる。
日本市場におけるマルチブランドの展開について説明した瀬戸氏は、ブランドイメージと導入されているテクノロジーのマトリックスで日本PCメーカーのポジショニングとシェアを紹介した上で、ACERの各ブランドがどのように対抗していくのかを紹介した。
ACERの各ブランドの位置付けはワールドワイドと共通だが、ブランドイメージが高いマーケットでは、以前、日本進出時に高いブランドイメージを確立していたGatewayを、競合が少ないバリューイメージではemachinesをそれぞれ割り当てるが、主要な日本PCメーカーが高いシュアを確保しているミドルレンジブランドのマーケットではacerブランドで競合することになっている。
瀬戸氏は、「日本市場で3年以内でトップ5」という日本エイサーに課せられた目標を掲げた上で、マルチブランド戦略に向けた製品のロードマップを今後9〜12カ月で練っていくと述べている。日本の主要なPCメーカーと競合してトップ5に成長するためには、多くの外資系PCベンダーが頭を悩ませている「日本市場の特殊事情」を克服していかなければならないが、瀬戸氏は、ACER本社の幹部もそのことは認識していると説明し、特に“流通”に対しては十分にリソースを投入して従来の問題を解決しつつあり、ブランドによっては特定の流通販路に依存していたケースも、将来的に販路を拡大していく可能性もあるとの考えを示している。
マルチブランド戦略では、ユーザープロファイルの分類が大きなウエイトを占めているが、ACERが示した分類はワールドワイド共通のものだった。瀬戸氏は、日本のユーザーに特化した分類については現在作業を進めている段階で、その結果に適したマルチブランド展開も考えていくようになる可能性もあると示唆し、ロードマップの策定に最長で12カ月かかるとされているが、それまでにも、マルチブランド戦略を意識した新製品は登場するという見通しを明らかにした。
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