みなとみらいの新「大和研究所」でThinkPadの“拷問”を眺めるゴエモン風呂もある

» 2011年06月14日 10時00分 公開
[ITmedia]

 “質実剛健”という言葉がふさわしい「ThinkPad」シリーズの高い信頼性は、IBMの時代から大和研究所が築いてきたものだ。Lenovoの研究開発拠点は、北京、ノースカロライナ、そして日本にあるが、このうち最後の大和事業所(神奈川県大和市)は、2011年1月4日に、横浜のみなとみらいセンタービルに移転している。

 ただし、新しい研究施設の名は“みなとみらい研究所”ではない。Lenovoのマーケティングでトップの任につくキャサリン・ラグース氏が、同社の高い成長率の要因として「テクノロジーとイノベーションへの投資」を挙げ、「YAMATOラボこそがその証だ」と語るように、ThinkPad開発において大和ブランドは内外に広く認知されており、近代的なみなとみらい21地区にあっても「大和研究所」の名前は引き継がれた。レノボ・ジャパンが実施した新「大和研究所」見学ツアーの模様をリポートしよう。

みなとみらいセンタービルの最上階にオフィスを構えるレノボ・ジャパン。新「大和研究所」もすべてこのビルに移転された

 レノボ・ジャパンは現在、みなとみらいセンタービルの最上階21階にオフィスを構え、20階を実験室とし、オフィスフロアから離れた2階に研究開発の試験設備を置いている(試験設備の中には騒音や振動などが発生するものもあるため)。研究設備は、同社の製品の「堅牢性」「耐久性」「信頼性」「性能優位性」を支える4つの柱で構成されており、それぞれ8つのエリアに分けられている(なお、今回披露されたのは試験設備の一部に過ぎず、このほかにもさまざまなテストが日々行われている)。

 まず初めに通されたのは「振動衝撃試験設計ラボ」だ。ここでは繰り返しの衝撃や振動などへの耐性に対する試験が行われる。例えば、Bump Testと呼ばれるテストでは、ThinkPadをカバンに入れた状態でテーブルや床に勢いよく置いた状況を想定し、いわばThinkPadに“往復ビンタ”をするような衝撃を数100回も与えていく。これによりHDDの軸がずれたり、ディスプレイの配線が切れるなどの症状が出ないかを確かめるのだ。“揺れ”の具体的な数値は非公開とのことだが、3ケタを超えるGがかかっているというから、ノートPCにとってはかなりの負荷だろう。

 また、リュックサックにThinkPadやほかの荷物を入れて持ち運ぶ状況を想定して行われるWeighted Vibration Testでは、ThinkPadが載せられた台座とは別に、ThinkPadにおもりが載せられ、2つの振動が同時に(しかもランダムに)起きる仕組みになっている。堅牢性が十分でなければ基板にハンダクラックが発生し、実際にこのテストで10分程度で壊れるものは1年近く経ってから問題が顕在化することもある(ちなみに現在では数時間テストを繰り返しても大丈夫だという)。

大がかりな装置が並ぶ「振動衝撃試験設計ラボ」内部。Bump TestやWeighted Vibration Testと呼ばれるさまざまな振動衝撃試験が行われている

 「耐久試験設計1ラボ」では、自由落下、角落下などの耐久性のほか、米軍のMIL規格に含まれるほこり(ダストとサンド)への耐性もテストされている(通称“ゴエモン”。五右衛門風呂に似ているかららしい)。後者の機械は自社開発で、現在は正式な試験項目ではないというが、研究室内にこのような設備までそろえているのはさすが大和研究所といったところだ。落下試験も通常は4面のところ、8つの角に対してそれぞれ行っていたり、PCを起動した状態で、かつHDDのヘッドが退避する間を与えずに落下(片持ち落下)を行っていたりと、見ていてかなり“痛々しい”テストが繰り返されていた。

防塵試験を行う「ゴエモン」。自社で開発、製造したという。テストに使う砂は消耗品で“意外と高価”なのだとか(写真=左)。落下に対するさまざまな耐衝撃性がテストされているほか(写真=中央)。、液晶ディスプレイに圧をかけて内部に亀裂が発生しないかなども検証されている。「X1」のディスプレイがかなり歪んでいるのが分かる(写真=右)

 一方、耐衝撃・振動といった堅牢性だけでなく、静音性や無線LANの性能といった使い勝手にかかわる部分の検証も行われている。

 「音響試験設計ラボ」の主要施設は、壁一面に吸音のくさびを設け、床面に防振材を敷いた無響室で、60センチの厚さを持つ入り口のドアを閉めると、静かすぎて耳が痛くなるほど。室内の暗騒音(環境騒音)は10dB以下で、非常に遮音性が高く、部屋のすぐ外で車が疾走(80dBくらいの騒音)していても聞こえないという。ここでPCから25センチ、床から120センチの距離にマイクを設置し、ファンノイズなどが測定されている。なお、室温を23度に維持するため、サイレンサー付きのエアコンを通したダクトがあり、何かの事故で出られなくなったときのために“閉じ込められスイッチ”も完備していているのがユニークだ。

静音性を試験する音響試験設計ラボ。多くの試験設備はそのまま移転したが、無響室はみなとみらいセンタービルのスペースの関係から新たに新設された。床面積は旧大和事業所時代の3分の1ほどに縮小されている。ちなみに、外の音が聞こえないだけでなく、中の音も漏れ出ないため、緊急事態に外へ連絡するための「閉じ込められスイッチ」がある。ネーミングセンスが……

 「無線性能試験設計ラボ」では、ノートPCには欠かせない無線の性能や、アンテナデザインなどが研究・開発されている。アンテナ性能を測定する電波暗室は、電波の反射を防ぐ電波吸収体のカベで囲まれ、ThinkPadをさまざまな角度に傾けて、きちんと電波を受信できるかがテストされる。

 ちなみに、アンテナの最適な形状はボディの大きさで決まってくるが、製品化に間に合わせるためにはコンセプト段階からシミュレータによって形を出していく必要がある。実際にアンテナ性能が最適化されるのはそれからだ。また、アンテナの性能が高いほどPC内のちょっとしたノイズに影響を受けやすくなるため、開発段階でそれらの検証も行われている。実際に、開発段階で某LCDメーカーのディスプレイを搭載したときだけ無線LAN性能が落ちるという問題が発覚し、これをフィードバックしたこともあるという。

無線性能を検証する無線性能試験設計ラボ。電波吸収体を一面にはったカベが何やら怖ろしげ。アンテナ形状は開発段階のシミュレーションによってある程度は設計される。ファインチューニングが行われるのは、実際にボディの大きさが固まってきた段階になる

 上の無線性能試験とは異なり、携帯電話による干渉や、故障の原因になる静電気の帯電・放電に対する耐性もテストされている。それが「EMC試験設計ラボ」だ。特に静電気については、人がThinkPadを持ち歩くだけで帯電していくため、間接放電、直接放電、帯電したUSBデバイスを差し込んだときの影響など、さまざまな試験がなされている。電圧の数字は公開していないが、8000ボルトを超えるテストもあり、非常に大きなゴム手袋をつけて作業にあたっていた。

携帯電話などが受信したときに発生する電磁波の影響を調べるEMC試験設計ラボ。ノートPCと携帯電話は、多くの場合近くに置かれており、これらの干渉は問題になりやすいという(写真=左)。専用器具でUSBデバイスを帯電させ、ThinkPadに差し込んだり、逆にThinkPadを直接帯電させて、ほかのデバイスへの影響を調べる試験も実施している。巨大なゴム手袋がかっこいい(写真=中央/右)

 「耐久試験2設計ラボ」では、液晶ディスプレイの開閉試験や、ThinkPadにひじをついたときを想定した負荷試験が実施されている。機械によってひたすら(4日間)液晶ディスプレイの開閉を行い、ヒンジの強度を確かめたり、500円玉大の器具がThinkPadの天板を叩く様子が見られる。続く「信頼性試験設計ラボ」では、温度や湿度よる影響など、環境の変化に対する信頼性が検証されている。例えば代表的な輸送では、飛行機が0度前後、船舶の貨物コンテナが50〜60度になるといわれており、こういった環境でもきちんと動作することが求められる。また、急激に温度を変えていく熱衝撃試験など、MIL規格のテストも行われていた。

 一方、ThinkPadから発せられる電磁波がほかのデバイスに与える影響も検証されている。「電磁波試験設計ラボ」では、電波を遮断する部屋の中で、ターンテーブル上の机にThinkPadを設置し、そこから発生する微量の電磁波を、部屋の外にある測定器によってモニタリングしていた。

厳しい試験を耐えるThinkPadなら人が上に乗っても問題ない(写真=左)。温度や湿度に対する耐久性もテストされている(写真=中央)。一方、ThinkPadがほかのデバイスに“迷惑”をかけないかも入念にチェックされる(写真=右)


 以上のように、ThinkPadは製品設計の段階でさまざまな厳しい試験を重ね、その堅牢性と信頼性を保証している。軍用のMIL規格に適合する防塵試験や、8面角落下試験を自社の施設で実施しているのもユニークな点だ。さらに他社製品を用いたテストも行っており、仮に劣っている部分があれば仕様変更をすることさえあるという。レノボ・ジャパン品質開発・製品保証・テスト技術課長の小林康浩氏は「他社の実力は分かっている。(ThinkPadの堅牢性・信頼性については)全部が誇れる部分だ」と胸を張り、現在も変わらない大和研究所の存在感をアピールしていた。

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