電子書籍ビジネスに一石を投じる「太陽系 for iPad」:本を売るのではなく、物語を伝えること(1/2 ページ)

» 2011年08月31日 13時57分 公開
[林信行,ITmedia]

(→前編:世紀のコラボによる注目のiPad電子書籍「太陽系 for iPad」)

成功を続けるフェイバー×タッチプレスの電子書籍

「太陽系 for iPad」

―― フェイバーとタッチプレスのコラボによる電子書籍、失敗作が1つしかないというのはすごい話ですね。ほかにはどんなアプリケーションを出しているのでしょう。

チャウン 最近、フェイバーとタッチプレスは英国出身の詩人、T.S.エリオットの「The Waste Land」(荒地)という詩のアプリケーションを出しました。

 これはたった一片の詩をアプリケーション化したものです。「荒地」は非常に大きな影響力を持った詩でした。アプリケーションを起動すると、同じ詩をいろいろな人が読んでいます。T.S.エリオット本人だったり、有名な役者だったり、論評家だったり。そしてその人たちなりの詩の解釈も聞けたりします。このアプリケーションも驚くほどの成功を収めています。New York Timesの社説でも取り上げられました。

 多くの人は非常に驚きました。というのも、iPadは非常にハイテクな道具のはずなのに、非常にアナログな詩の世界と結びついて、これだけ大きな話題となったからです。このように、想像力豊かにチャレンジすれば、非常に大きな可能性が開けてくるのです。

 多くの出版社は単に本を適当に選んで、それを電子書籍化していますが、これはもしかしたら間違いかもしれません。タッチプレスとフェイバーは、そうではないアプローチで非常に大きな可能性を示してくれたのではないかと思います。

「The Waste Land」(荒地/T.S.エリオット)の電子書籍。さまざまな人のさまざまな視点から一片の詩に深く踏み込んでいく

―― ところで、「太陽系 for iPad」はチャウンさんにとって初めての電子書籍なんですか?

チャウン いいえ。私がこれまで出してきた書籍のいくつかがAmazonによって電子書籍化されていてKindleで読むことができます。でも、それらは文字が中心の書籍で、今回のような電子書籍を作ったのは初めてですね。

 これは非常にエキサイティングな新しいチャレンジだと思っています。我々は可能性の輪を押し広げていると思います。今日の世界では、「何ができるのか」という問いの答えは、想像力次第になってきていると感じました。

アプリによって広がる読者層

―― アプリケーション化したことで読者層も広がった手応えを感じますか?

チャウン そうですね。フェイバーは英国の科学系出版社なので、これまで英国外で本を出すというのはなかなか大変なことでした。しかし、アプリケーション化し、App Storeに並んだことで、私の本は世界中で売ることができるようになりました。先日もブラジルのニュースの取材を受けていたところです。

 これまで私の本がブラジルで出版されたことはなかったので、このように本の届く範囲が広がったことは非常に喜ばしいことです。

―― 海外展開だけでなく、異なる層にも広がったと思いますか。

チャウン 私はサイエンスライターで、これまでにも子供向けのSFものなども書いてきました。主に執筆を続けているのは英国の科学雑誌「New Scientist」で、発行部数は約10万部弱、読者のほとんどは科学関係の人々です。

 一方で「Popular Science」という雑誌にも寄稿しています。こちらはより幅広い層に読まれている雑誌です。私の妻は看護婦で、それほど科学に詳しいわけではありませんが、実は彼女みたいな人こそがこの雑誌で私がターゲットにしている読者なのです。

 ただ、今回のアプリケーションでは、これよりもさらに幅広い層にリーチできたのではないかと思っています。というのもYouTubeで、なんと幼児がこのアプリケーションを使っている動画を見かけたからです(笑)。

 ほかにも大勢の方から6〜7歳の子どもがアプリケーションを愛用しているという手紙をもらいました。iPadアプリケーションは、見て直感的に訴えかけてくるので、子供たちにも易しいのでしょう。

 実際、大勢の教員の方々が、例えば惑星の軌道の動きといったものは、これまでの授業ではなかなか伝えられなかったことだが、アプリケーションではそれを優雅に見せていて子供たちの関心を引くのに役立っている、といった声を聞いています。このように「太陽系 for iPad」は勉学の補佐的に使われる一方で、とても小さな子どもたちにも愛用されているのです。

 つい先日、ちょうど家の前の薬屋でベビーカーにのっている赤ん坊がiPadを使っているのを見ました。残念ながら「太陽系」のアプリを使っているわけではありませんでしたが、iPadというデバイスの可能性の広さを感じました。いずれにせよ、アプリケーションを出したことで、私の読者層は大きく広がりましたね。

 ただ、これだけ新しい読者層にリーチできたのに、そこで私に興味を持ってくれた海外の人が、私のほかの本を買おうとしても、その国で本が売っていなかったり、絶版になっていたりすることで、歯がゆい思いもしています。

―― そのあたり、これまでの本も電子書籍化して、うまくリンクができるといいかもしれませんね。

チャウン そうですね。

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