次世代CPU「Haswell」は今度こそ“パソコンの形”を変えるか本田雅一のクロスオーバーデジタル(1/2 ページ)

» 2012年09月19日 15時30分 公開
[本田雅一,ITmedia]

新味に欠けるIDF 2012で可能性を示した「Haswell」

 米サンフランシスコで9月11日から、インテルが主催する開発者向けの技術フォーラム「Intel Developers Forum 2012(IDF 2012)」が開催された。筆者は久々の参加となったが、今このタイミングは、インテルにとってやや我慢のときなのかもしれない。

 スマートフォンとタブレットの伸長に対し、今後はPC市場の後退といった予想もされているほか、これまで1年ごとに新プロセッサと新プラットフォームを出してきたサイクルが、今年のIvy Bridgeでは崩れ始めている。パーソナルコンピュータを新たな領域に引き上げると期待されている次世代CPU「Haswell」(のUltrabook向けTDP 15ワットモデル、TDP 10ワット以下モデル)は、現時点において来年後半にリリースされる予定だ。

IDF 2012の基調講演を行うダディ・パルムッター氏

 インテルのPC分野における支配力に陰りはないものの、初日の基調講演やプレスカンファレンスを聴いている限り、イノベーションのサイクルは感覚の幅が広がってきているとも感じられた。

 さらにスマートフォン、タブレット向けのソリューションでも、新たなマイルストーンが示されることなく、インテル上席副社長でIA事業部長のダディ・パルムッター氏の基調講演は、“どこかで見たことのある、ちょっとしたデモ”で終わってしまった。久々の参加とはいえ、10年以上前からIDFに足を運んで、このような経験は過去にない。

 今回のIDFで最大のニュースは、初日の最も多くの情報が開示されるタイミングで、参加者を驚かせるような“新しい”と言える情報が出なかったことだ。特にPC向け、スマートフォン/タブレット向け、両方のソリューションにおいてLTEベースバンドの統合計画について、期間中、一切触れられなかったことには失望を感じた。

 パルムッター氏は、LTEベースバンドの統合について記者から質問を受けたが「すべての機能ブロックは統合へと向かっている。いずれ、必要とされる機能はすべて統合されていくだろう」と答えるにとどまった。

 一方でプラス材料もある。それはHaswell自身がパーソナルコンピュータという製品を新たな領域に誘うだろう潜在力が、今回のIDFで感じられたことだ。

 また幸か不幸か、インテルが毎年繰り返してきた「Tick Tock」のリズムがズレてきたことで、搭載製品を開発するPCメーカーは、Haswellを生かした製品の開発・投入までにそのコンセプトを練り込む十分な時間を持つことができるようになった。“次のUltrabookへの進化”について、ゆっくりと考える時間が与えられたことは、プラスと考えていいだろう。

HaswellはPC設計に自由をもたらす

第4世代Coreアーキテクチャとなる「Haswell」(開発コード名)は2013年に投入される

 IDF 2012での主役は、言うまでもなく第4世代CoreアーキテクチャとなるHaswell(開発コード名)である。パイプライン構造そのものに大きな差はないとのことだが、x86命令をμOPs命令に変換する命令発行ポートが2本増設されて8命令同時発行となった。

 このうち、整数命令を発行できるポートは3から4に増加している。浮動小数点演算性能やメディア処理命令の実効性能、処理効率を上げるためのさまざまな、そして細かな制御や、より小さな回路ブロックでの省電力制御など、中身のリファインは多岐に渡っているようだ。さすがに内部アーキテクチャを大幅更新するタイミングの新商品である。

 Haswellの整数演算におけるIPC(動作クロック周波数当たりの平均命令実行数)は、ピーク時で10%程度の向上にとどまっているようだが、実効性能や消費電力あたりの性能はかなり高いことが予想される。また、内蔵するGPUのパフォーマンスも最大2倍になる。

 まったく新しいアーキテクチャのため、パフォーマンスの向上に大きな期待ができるのはもちろんだが、今回のアップデートにおける最も大きなポイントは、パーソナルコンピュータを設計する自由度が向上することだ。

 インテル自身が話しているように、Haswellコアは大規模なサーバから薄型省電力のタブレットまで、実に幅広いタイプのコンピュータを自由に設計できるようになっている。Haswellにも従来と同じように熱設計電力(TDP)の枠は設けられているが、Ultrabook向けにはIvy Bridge(開発コード名)の17ワットより低い15ワットのモデルが提供されるほか、新たに10ワット以下の枠が設けられた。

 10ワット以下のプラットフォームに関しては、TDPが「ずっと低い」と具体的な数値を挙げていない。これはHaswellが消費電力とパフォーマンスの関係を細かくカスタマイズできるようにしているからだ。例えば、Ivy Bridgeに対して2倍のパフォーマンスを持つ内蔵GPUは、あえてパフォーマンスを半分に落として、消費電力も半分以下とするデモが披露された。

「Ultrabooks and the Transformation of the PC」セッションで示されたインテルのPC向け低電圧CPUロートマップ(画面=左)。Ultrabook向けには2013年後半、TDP 15ワットのモデルが投入される予定だ。さらに2013年前半にはIvy Bridgeで10ワットのモデルが登場し、同年後半にはHaswellで10ワット以下のモデルが出てくるという。IDF 2012で公開されたHaswellの開発ボード(写真=右)。これで内蔵GPUの性能デモが行われた

 すでに現世代のUltrabookでも行われているが、薄型のデザイン性が高いコンピュータを設計しやすいよう熱設計の枠とパフォーマンスの関係を、より幅広く取れるようになっているのだ。すなわちタブレット型を含めて、従来の常識にとらわれない新しいコンピュータのデザインが生まれる素地が、Haswellによって生まれる。

 また、HaswellはPCがこれまで抱えてきたいくつかの問題を解決する可能性がある。スマートフォンやタブレット端末が当たり前にこなしている、低消費電力の待機状態でありながら携帯電話網に接続してデータ受信を受ける機能、そのまま長時間バッテリーを維持できる機能、そしてあっという間に復帰する機能などを、PCでも実現できるよう設計上の配慮がされている。

 まだ蒸し暑さの残るこの時期に、“来年後半にリリースされるプロセッサ”というのはかなりのロングショット(長距離射撃)で、現時点では大まかな最終製品のイメージしか出すことはできない。最終的に魅力的な製品のデザインを行うのはPCベンダーの仕事だ。こればかりは実際に製品が出ないと分からない。

 しかし、インテル自身がどんなPCになると思っているのかについては、IDFの「Ultrabooks and the Transformation of the PC」というセッションで語られた。

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