シングルカード最強を目指して――「Radeon HD 7990」投入の狙い製品担当者インタビュー(2/2 ページ)

» 2013年04月24日 13時01分 公開
[本間文ITmedia]
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大きく変わったグラフィックスロードマップ

 一方、AMDのグラフィックスロードマップにも変化があったようだ。ネケチャック氏によれば、「今後、アーキテクチャ世代ごとのコードネームは与えなくなるかもしれない。つまり、2013年に投入するデスクトップ向けGPUは、すべて“Sea Islands”(シー・アイランド)シリーズというくくりになる」と説明する。

 Radeon HD 7970は、Southern Islandsシリーズとして“New Zealand”の開発コードネームが与えられたが、Sea Islandsシリーズとして投入されるにあたって、「この2GPUのカードに“Malta”(マルタ)というコードネームが与えられた」のだという。

 つまり、AMDはGCNアーキテクチャを採用する新GPUとして、OEM向けにRadeon HD 8670に採用した“Oland”(オーランド)コアと、先ごろ一般市場向けに投入したRadeon HD 7790で採用した“Bonaire”(ボネール)コアを、新たに開発したが、「これらはすべて、Sea Islandシリーズという位置付け」(同氏)だ。しかも、「我々は年末にも新GPUの投入を計画しているが、アーキテクチャが違っても、2013年に投入されれば、Sea Islandsシリーズとなる」と、ネケチャック氏は話す。

2011年末のRadeon HD 7000シリーズ発表会で“Coming soon”と予告された“New Zealand”(画面=左)。Radeon HD 7990のエンジニアリングサンプルの背面には「Asyc Type:Malta」の文字(写真=右)

2012年のAMD Fusion Developer Summitでチラ見せされたNew ZealandのFirePro版。基板設計は大きく変わっていないが、ヒートシンクなどはRadeon HD 7990として投入されるまでに大きく手が加えられたという

 ネケチャック氏は、「Southern Islandsシリーズは、アーキテクチャを一新したGCNの第1世代製品であり、ドライバの改良などで、まだまだパフォーマンスを向上させられる。そのため、現時点ではアーキテクチャの大幅な改良は急いでいない」と語る。実際、グラフィックスカードベンダー関係者は、AMDが昨年末からGPUロードマップを大幅に見直してきたことを明かしており、当初、アーキテクチャ改良が施された製品も投入される予定だった“Sea Islands”は、Southern Islandsシリーズのラインアップを補完する形で展開されることになったのも、この流れを受けてと見ることができる。

 その一方で、AMDが推進する、CPUとGPUがより密接な連携を図り演算性能を高めていくヘテロジニアス・コンピューティング環境を構築するうえで、2013年にGPUのアーキテクチャ拡張を行なうことを明言してきた。このため、業界関係者は「今後、再びAMDのロードマップルースが変更される可能性はゼロではない」と指摘しており、その動向は、まだ流動的と言わざるを得ない。

2012年2月の投資家向け会議で公開されたAMDのロードマップ。Sea IslandsでGPUのアーキテクチャ変更がうたわれていた(画面=左)。AMDが推進するヘテロジニアス・システム・アーキテクチャのロードマップでも、2013年にGPUのアーキテクチャ変更が計画されていた(画面=右)

 また、AMDはデスクトップGPUの強化に加え、今後、PCゲーム市場だけでなく、コンソールやモバイル端末も含めたゲーム市場に積極的に製品やサービスを展開していく「Unified Gaming Strategy」を立ち上げる。

 同社でグラフィックスビジネスを統括するマット・スキナー副社長は、「PCゲーム市場はソフトウェアや、コントローラなどの周辺機器を含めれば250億ドル(2012年)の市場規模を誇るが、コンソールやモバイルデバイスも含めれば、2015年には1200億ドルに達すると期待される成長市場だ」とし、今年半ばに投入予定の次期省電力版APU(Accelerated Processing Unit)や、ソニーの次期ゲームコンソール「Play Station 4」が同社のAPUベースのアーキテクチャを採用することを受け、GCNアーキテクチャをゲーム市場のスタンダードとして据えることで、ゲームデベロッパとの協業も強化していく考えだ。

Unified Gaming Strateryについて説明するマット・スキナー副社長(写真=左)。2015年には1200億ドルに達すると予測されるゲーム市場において、PCゲーム市場だけでなく、コンソールやタブレット端末向けのゲーム市場にも影響力を拡大する意向を示す(写真=右)

 さらに同社は、タブレット端末やノートPCなどでも快適なゲーム環境を提供すべく、次世代のゲームプラットフォームとして期待されるクラウド・ゲーミング・サーバ用に「Radeon Skyシリーズ」を投入する。そのフラグシップモデルとなる「AMD Radeon Sky 900」は、今回発表されたRadeon HD 7990と基板設計を共用するサーバ向けモデルという位置付けとなる。

 すでに同社は、クラウド/ゲームの配信サービスを提供するベンダーや、ゲームデベロッパとも協業を開始しており、「PCゲームが持つ高画質なゲームプレイを、より多くのデバイスで提供できるようにしたい」と、スキナー氏は語っている。4Kゲーム環境をも視野にいれたRadeon HD 7790の突然のリリースや、Radeon Skyシリーズの投入は、AMDが目指す、新世代のゲーム環境構築への布石といえるかもしれない。

クラウド・ゲーミング・サーバー向けに追加される「Radeon Skyシリーズ」。そのフラグシップモデルとなるRadeon Sky 900は、基板設計をRadeon HD 7990と共用する

Radeon Sky 900では、ファンレス設計を実現すべく、Radeon HD 7990とは異なるヒートシンクを採用する(写真=左)。GCNアーキテクチャを核に、タブレットからクラウドまでゲーム環境を整えようという「Unified Gaming Strategy」(画面=右)。

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