このクラスの家庭用ルーターとしての標準的な機能は、見た限りではざっとそろっているようで、筆者の用途では特に不足は感じなかった。ただしローカルIPアドレスの変更など一部操作については前述のスマホ向けインタフェースでは行えず、PCで行う必要がある。ないと思った機能が実際には搭載されている場合があるので、初期設定完了後の詳細な設定はPCから行うことをおすすめする。
手持ちのネットワーク機器を本製品につなぎ替える場合、機器の構成や台数によっても、適したつなぎ方は変わってくる。ノートPCやスマホ、タブレットなど2〜3台程度しか接続していないのであれば、Wi-Fiの設定を開き、本製品のSSIDを探して接続先を変更すればよい。機器の数が少なければこれが最も手軽だ。
機器の中に有線クライアントが含まれている場合はどうすればよいだろうか。本製品の有線ポートは1基のみなので、そのままだと1台の有線クライアントしか接続できないが、ハブを1台用意し、そこに前もって全てのクライアントを接続しておけば、ハブごとネットワークをつなぎ替えられる。そもそも本製品に有線LANポートが1基しかないのは、こうした使い方を想定していると推測される。
多数のノートPCやスマホ、タブレットをWi-Fi接続している場合も考え方は同じで、別途アクセスポイントを用意してクライアントは全てそこにぶら下がる形にしておき、アクセスポイントごと本製品につなぎ替えたほうがスムーズだ。この方法だと本製品のWi-Fi機能が使われないままになってしまうが、機器の側でWi-Fiの設定を一切変更することなく、まとめて経路を切り替えるのであれば、こちらの方が圧倒的にスピーディーだ。
なお、どのケースにおいても気を付けたいのが、固定IPアドレスの扱いだ。DHCP機能で割り当てられたIPアドレスを使っている場合、もとの環境から本製品につなぎ替えた時点で本製品から新しいIPアドレスが発行されるが、もとの環境を固定IPアドレスで運用していた場合、セグメントが異なることからうまくつながらなくなることが予想される。
本製品のIPアドレスは初期値では「192.168.179.1」という、かなり特殊なセグメントなので、もとの環境で使っていたIPアドレス(例えば192.168.0.*)と同じセグメントへと変更しておき、つなぎ替えた後もそのままのIPアドレスが使えるようにしておくとよい。ちなみにIPアドレスの変更はスマホの設定画面からは行えず、PC向けの設定画面から行う必要がある。
以上のように、万が一の回線トラブルをはじめとして、転居や事務所移転にあたっての一時利用、機器の故障が疑われる場合の原因の切り分けなど、さまざまな用途に活躍しうる製品だ。
中でも、ネットにつながらないと業務が継続できないフリーランスやSOHO事業者にとっては、保険という意味で手元に1台あると心強いだろう。実売価格も1万円台半ばから後半と、一般的なWi-Fiルーターと大差なく、常時利用しない場合であっても十分に許容できるコストだ。
本製品で残念なのは、Wi-Fiが2.4GHz帯と5GHz帯の切り替え式となっているため、クライアントの中に2.4GHz帯しか対応しない機器があれば、全て2.4GHz帯で統一するしかなくなってしまうことだ。恐らくコストとの兼ね合いだろうが、今回のように既存のネットワークを丸ごとつなぎ替える目的で使う場合、この仕様は少々ネックになる。
場合によっては、有線ポートに別のアクセスポイントを追加し、2.4GHz帯と5GHz帯を内蔵のWi-Fiとで分担させる方法もありだろう。
余談だが、個人的に欲しいのは、今回のようにSIMカードのみに対応した製品ではなく、従来のWi-Fiルーターの機能をそのまま備えつつ、さらにSIMカードにも対応した2WAY製品だ。
国内の製品では、過去にバッファローからUSB接続のデータカードを挿せるWi-Fiルーター「DWR-HP-G300NH」が販売されていたことがあるが、今回紹介したようなニーズが多ければ、そのような2つの回線方式をサポートする製品のニーズもあるはずで、将来的にはそうした製品展開も期待したいところだ。
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