PC向けディスプレイの規格を策定しているVESA(Video Electronics Standards Association)は、高性能ディスプレイの基準およびテスト仕様となる「DisplayHDR Ver.1.0」を公開した。
上位のグレードから、「DisplayHDR 1000」「DisplayHDR 600」「DisplayHDR 400」の3種類が用意されており、それぞれ、輝度、色域、応答速度、色深度などの要件が規定されている。
このVer.1.0では液晶ディスプレイにフォーカスしており、有機ELディスプレイなどについては今後の仕様で検討される。なお、表示解像度、アスペクト比、オーディオに関する内容はこの仕様には含まれない。
HDRというと、「HDR10」を連想する方も多いだろう。もともとHDRというのは「High Dynamic Range(高ダイナミックレンジ)」の略であり、汎用(はんよう)的な言葉だ。
高ダイナミックレンジを表現するための技術仕様がさまざまある中で、BDA(Blu-ray Disc Association)がUltra HD Blu-rayの要件として取り入れた仕様がHDR10と呼ばれ、その後CTA(Consumer Technology Association)で「HDR10メディアプロファイル」として、HDRの定義の1つに採用された経緯がある。
DisplayHDRの仕様は、既にHDR10がデファクトスタンダードとして普及していることを考慮した上で決められており、HDR10対応(HDR10のコンテンツの受信・入力と信号処理、メタデータの処理に対応)は必須要件だ。認証のためのテスト環境にもHDR10レディのシステムが指定されている。
つまりDisplayHDR対応のディスプレイであれば、1000、600、400、それぞれのグレードに応じた快適さでHDR10コンテンツが楽しめる。
近年のノートPCの液晶ディスプレイの表示性能、表示品質は上がっているが、「高輝度」「広色域」「高応答速度」などと書かれていても各社で基準はバラバラだ。ユーザー側はそれだけではよく分からないし、メーカーとしても、仮にDisplayHDR相当の良いディスプレイを搭載したとしても、その良さを伝えるために、さまざまな工夫をしなければならない。
DisplayHDRのような明確で段階的な基準があれば、ユーザーにとっては性能を判断する目安になる。最高が1000、中間が600、エントリーが400と、何となくでもイメージできれば選びやすいし、DisplayHDR 1000の要件を調べることで詳細な情報も取得できる。メーカー側も優れた製品を効果的にアピールでき、両者にとってメリットがある。
DisplayHDRの仕様は、「HDR向け」というだけでなく、高性能な液晶ディスプレイの指標としても有用だろう。筆者自身も、液晶ディスプレイの性能、品質はPC選びにおいて優先度が高い要素だが、解像度以外のスペックが公開されることは珍しく、実際に見てみないと分からないことも多い。
クリエイティブやオフィス向けの良いディスプレイというものは、必ずしもDisplayHDRの仕様とは一致しないが、それでも大きな前進だ。DisplayHDRの策定を歓迎するとともに、液晶ディスプレイの性能、品質についてメーカー、ユーザー双方から注目が集まるきっかけになると期待している。
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