コラム
» 2019年03月10日 06時00分 公開

ITはみ出しコラム:Facebookが「プライバシー重視」に方向転換 その本当の狙いは?

米Facebookのマーク・ザッカーバーグCEOが発表した「プライバシー重視のソーシャルネットワーキングビジョン」は、大きな方向転換として米国で注目を集めています。個人情報の取り扱いで批判を浴び続けてきた同社は、どう変わろうとしているのでしょうか。

[佐藤由紀子,ITmedia]

 米Facebookのマーク・ザッカーバーグCEOが3月6日(現地時間)に発表した3200ワード以上のマニフェスト「A Privacy-Focused Vision for Social Networking(プライバシー重視のソーシャルネットワーキングビジョン)」は、同社の大きな方向転換を示すものでした。

facebook 「A Privacy-Focused Vision for Social Networking(プライバシー重視のソーシャルネットワーキングビジョン)」

 ザッカーバーグ氏の発表を真に受ければ、「これまでは人々が公の場でどんどんつながって、意見を交換できる、“town square(町の広場)”を作ることに専念してきたけど、これからの時代はもっと親密なつながりが大事だと気づいたので、安心してプライベートにつながれる場、“リビングルーム”を作ることにした」ということです。

 広場を閉鎖するわけではありません。Facebookはこの15年間、ミッションとして「世界をよりオープンにし、つなげる」(2017年からは「世界のつながりをより密にする」に変更)を掲げてきました。そのための場であるFacebook本体は持続させるそうです。

facebook Facebookのミッションを語るマーク・ザッカーバーグCEO(2017年のFacebook Community Summitより)

 「でも、ここ数年のユーザーの動きを見ていたら、リビングルームで親密な話をしたがっていることが分かった。それがこれからのネットだ」とザッカーバーグ氏は語ります。あくまでも、「ユーザーのニーズに合わせて、みなさまのためにシフトする」ということで、広場と並行してリビングルームも用意するんだそうです。

 でも世間はそうは受け取りません。Facebookはこれまで、個人情報の取り扱いについて世間から非難されては修正するというのを繰り返してきた15年間を知っているので。ご存じの通り、Facebookは特にこの2年間、ユーザーデータの扱いで批判を浴びてきました。

 「プライバシー重視のリビングルームにシフト」というのは、こうした批判から逃れるためにみえます。そもそも、広場を利用する人がわずかながら減り始めているので、次のお金もうけの手段を考えておかないと、ということもあるでしょう。

 Facebookがいうリビングルームとは、エンドツーエンドで暗号化したメッセージングサービスです。そこでやりとりするメッセージの内容はFacebookも見ることができず、データは一定期間保存した後サーバから削除します。

 Facebookも見ることができない。ということは、フェイクニュースだろうが、テロの相談だろうが、何に使われていてもFacebookは責任を持たないつもりでしょうか。少なくとも、リビングルームについては問題を監視するためのモデレーター(Facebook上で問題のあるコンテンツの削除を判断する担当者)を増やす必要がありません。

 もっとも、Facebookが提供するサービスを児童虐待コンテンツのやりとりやテロの相談に使われるのは困るので、「メッセージの中身が見られなくてもポリシー違反を検出できる技術を開発していく」とは言っています。でも「広場ではお行儀良くしてね。リビングルームで何をしてもあなたの勝手だけど」ということにもみえます。

 Facebookも見ることができないというのはつまり、ターゲティング広告のためのデータをリビングルームからは取得できないということでもあります。

 でも、ザッカーバーグ氏は米Wiredのインタビューで、「これまでもメッセージングアプリのデータはターゲティング広告のためにはあまり使ってなかったから、そんなに影響ないんだ」と語ってます。「それよりメタデータの保存期間を短くする方が影響がでかいと思うけど、そこはちゃんと対処する技術を開発すれば済む話」とも。

 実はこのリビングルーム構想にはもう1つ、プライバシーとは関係ないけれど、重要なポイントがあります。Facebookが持っている3つのメッセージングサービス、「Facebook Messenger」「Instagram」「WhatsApp」を、相互運用できるようにするというのです。

 なるほど。やっぱりマネタイズが目的のようです。ザッカーバーグ氏がいう「メタデータ」には、誰が誰とやりとりしているか、というようなデータを含みます。3つのアプリでやりとりが広がれば、これまで以上に「つながり」が把握でき、広告に使えます。

 世間や政府当局からの風当たりが強くなってきてユーザーデータの確保が難しくなってきたので、次のマネタイズ方法を模索しよう、という狙いもあるのでしょう。

facebook 今後のFacebookが目指すのは「広場」と「リビングルーム」の両立……

 エンドツーエンドの暗号化と危険なコンテンツのやりとり防止の両立には少し時間がかかりそうなので、先に3つのメッセージングアプリの相互運用化が始まると思います。この構想は昨年からあって、それが嫌で米WhatsAppと米Instagramの創業者が相次いで退社したとみられています。

 リビングルームのマネタイズについてザッカーバーグ氏は、「プライバシーが守られるソーシャルプラットフォームが確立できれば、そのプラットフォーム上では支払いとか金融取引とか、プライバシーが大事ないろいろなビジネスを行える」と言っています。

 マニフェストでは触れていませんが、米New York Timesは、Facebookが独自の暗号通貨を検討中で、今年の上半期中に発表するかもしれないと報じています。そういえばFacebookでメッセージング製品担当副社長を務めるデビッド・マーカス氏が、ブロックチェーン関連事業のチームを立ち上げていました。

 Facebookと3つのメッセージングアプリのMAU(月間アクティブユーザー数)は、今年1月の発表では約27億人。27億人がFacebookの暗号通貨を使って送金したり買い物したりするようになれば、そこでもマネタイズできそうです。

 どんなにザッカーバーグ氏が「みなさんのため」と強調しても、それが「Facebookのため」であるのは言うまでもありません。Facebookは営利企業なので当然です。とはいえ、その結果、本当にプライバシーが守られるようになって、便利なサービスも使えるようになれば、結果オーライだと思います。

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