レビュー
» 2019年11月08日 07時30分 公開

AirPods Proに学ぶ魔法とテクノロジーの境界線 (1/4)

Appleのワイヤレスイヤフォン「AirPods Pro」が話題を集めている。さまざまな機能がうたわれているが、Appleの神髄はそこにない。Appleがかけた“魔法”を林信行氏が解説する。

[林信行,ITmedia]

 先週、突如発売されたAppleのAirPod Pro。インターネットでの評判やレビューの反応は上々だ。筆者の回りでも「今年出たApple製品の中でも最も素晴らしい」と評する声も多い。筆者も1週間使ってみたが、感心することばかりだった。

 イヤフォンという、これまでただのアクセサリー(周辺機器)に過ぎなかった製品をここまで輝かせている「魔法」とはいったい何なのか。そして他のメーカーは、ここから何を察知し、どう学べばいいのかを読み解いた。

AirPods Pro Appleの「AirPods Pro」

技術を“魔法”に変えるApple

 2018年に、Appleの幹部であるフィル・シラーにインタビューをしたとき、彼は「最もAppleらしい製品の2つ」として、AirPodsとApple Pencilを挙げた。

 どちらも、ボタンもLEDもない小さくシンプルな製品だが、手に取ると内部に凝縮されたテクノロジーがかみ合ってまるで「魔法」のように期待以上の効果を発揮してくれる。

 AirPods Proでは、そのAirPodsの魔法がさらに膨らみ、この製品をイヤフォン以上の何かに変えてしまった。

 既にご存知の人も多いと思うが、改めてAirPodsと比べた上でのAirPods Proの特徴を並べると、音質の向上、ノイズキャンセリング機能の搭載、装着感のカスタマイズ、耐水性などを挙げられる。

 だが、使ってみて分かるのは、これらの特徴が決して製品企画書に書かれたものをバラバラに実現したものではないことだ。おそらく、最良のイヤフォンを追求した結果、AirPods Proが完成し、それをふかんしてみたところ自然と備わっていた特徴なのだと感じる。

 例えば音質を例に説明しよう。クリアーさが増し、低音も効くようになった高音質。これは専用の「ハイダイナミックレンジアンプ」の搭載による部分が大きい。これが20Hzまでの低音と、正確な中高音域を安定させて提供しているのだ。

AirPods Pro AirPods Proが内蔵するハイダイナミックレンジアンプ

 しかし、それだけではなく、再生された音が確実に鼓膜に届くカナル型(耳の穴にねじ込むタイプ)のイヤフォンになったことも関係あれば、ただカナル型にするだけでなく、耳の外と中で同じ気圧を保てるように通気口を用意したことや、耳の形に合わせて低音域部分と中音域部分を常に調整し続ける「アダプティブ・イコライゼーション」という技術も大きく貢献している。また、そもそも環境音がうるさい場所ではノイズキャンセルも鼓膜に届く音楽の質を高めている。

 Appleは製品を作る時、製品企画書のようなものに売れる製品の条件のような仕様項目を並べて、1つ1つ形にするようなアプローチは取らない。そうではなく「この製品を少しでも良くするためにはどうしたらいいのか」を徹底的に探る。最良の結果を出すために、もっとできることはないかと妥協なく試行錯誤を重ね、これ以上できないというギリギリの線を模索して製品仕様に落とし込んでいることが多い。

 これに対して、他所での製品開発は、全てがそうだとは言わないが、多くはまず社内のりん議で承認を得るために、製品の仕様を企画書にまとめ、承認を得た後は、そこにあるスペックを1つ1つ実現する形で製品開発が進められる。

 では、「とにかくベストを目指す」というApple流製品開発のアドバンテージは何か? それは「技術製品を魔法に変えられる」ことだ。

 魔法というと、けげんな顔をする人がいるかもしれない。

 だが、映画「2001年宇宙の旅」の原作者として名高いアーサー・C・クラークのこんな言葉がある。

 「十分に発達した科学は魔法と見分けがつかない」

 Appleは、常にこの言葉を証明し続けてきた会社だ。

 そして、その魔法を形にしてきたのは、科学技術と、それを技術だとは見せない、より人々が親しみを持って触れることができるオブジェとして輝きを放つようになるまで、製品を磨きつづける、競合企業の多くがそこにたどり着く手前であきらめてしまうくらいに泥臭く、手間がかかるデザインの工程を経ているからこそだと思う。

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