AirPods Proに学ぶ魔法とテクノロジーの境界線(3/4 ページ)

» 2019年11月08日 07時30分 公開
[林信行,ITmedia]

付けたまま寝ても快適。イヤフォン史上最高のつけ心地

 Appleが工夫したのは、ソフトウェアだけではない。AirPods Proの外観といえば黒いグリルで際立たせられたマイク、そしてもう1つはAppleブランド製のイヤフォンとしては2008年の「Apple In-Ear Headphones」以来となる、耳の穴にイヤーチップを差した状態で固定するカナル型ヘッドフォンになっていることだ(実はこれに加えAppleの子会社、Beatsの人気製品、Beats XなどもAppleデザイン部門が協力している)。

 ただ、AirPods Proは、カナル型はカナル型でも、これまでのカナル型ヘッドフォンとは大きく異なっている。

 従来のカナル型ヘッドフォンというと、人気のBeats Xなども含め、ほとんどは耳の穴に差し込むスピーカーが埋め込まれた軸があり、その軸が耳の穴に直接触れると痛いので、それを緩和するために軸を覆うように、柔らかく肌にも優しいシリコンなどでできたイヤーチップを取り付ける形式になっている。

 シリコンでくるんでいるとはいえ、耳の穴の大きさや、装着している時間やどんな活動をしているかによっては軸を感じ、筆者などは長時間つけているとだんだん耳の穴の中が痛くなってきてしまう。

 これに対してAirPods Proでは、軸がなく耳の穴に入れるのは空気と成形された形状で膨らんだシリコンイヤーチップだけという、これまでにない構造になっている。

AirPods Pro AirPods Proのイヤーチップ

 取り付けた状態のイヤーチップを指でつまんでみると、ないはずの軸の感触を感じるのだが、実はこれはイヤーチップにあの形を保たせるためにつくられたシリコンによる軸だ。指で強くつまむと、軸自体も潰れてくれる。

 このために、耳の穴に軸の角が当たって痛みを感じるといったことは全くない。

 こんな構造のイヤーチップなのに、回転させてツメを引っ掛ける形でAirPods Proに取り付けると、驚くほどしっかり固定する(正直、軸にハメるタイプの通常のイヤーチップよりも、しっかりハマっている印象がある)。

 「この付け心地なら、もしかして」と一晩、AirPods Proをつけたまま寝てみた。

 飛行機の中などでよく十数時間耳につけていると、オーバーヘッド型であろうと、外耳にひっかけるタイプのイヤフォンでも、カナル型でも大抵接触部が擦れて痛くなったり、痛さを感じる前にどこかに落としてしまったりしていることが多い。

 ところがAirPods Proは、一晩つけたまま眠っても落ちることも、耳の内側に不快感や痛みを残すこともなかった。これなら十数時間の飛行機移動中もつけっぱなしで、かなり快適に過ごせそうな気がする。

AirPods Pro 3つのイヤーチップから選べる

 この快適さを生み出す軸のないカナル型ヘッドフォンのように、これまでの定番の形を疑ってゼロから再創造してしまう辺りは、デザイン部門主導で良いモノ作りに臨むAppleのこだわりの真骨頂と言えよう。

 こんなスペックシートどころか、Webページのどこにも書かれていない、細かすぎる上に説明が大変なデザインの変更が、この製品にこれまでになかった心地よさを与え、結果としての「心地よさ」だけがネットで広がって世界中の人々の心を動かすのだからすごいものだ。

 Appleでは、ハードウェアの担当者、ソフトウェアの担当者(最近ではクラウドの担当者)らがチームを作ってモノを作る。昔、日本の大手スマートフォンメーカーの開発にいた友人が、その最初のスマートフォンを出した直後に「Appleはずるい」といっていたのを思い出す。彼の言い分はこうだ。

 「iPhoneでは、ヌルヌル感と表現される心地よい操作感を実現するために、ハードの仕様もソフトの仕様も自分で決められるし、それでも反応が追いつかないと思えば、画面の解像度を落とすなど仕様を調整して使い心地を追求できる」

 彼の会社ではハード部門もソフト部門もバラバラで、お互いスペックシートで約束された要件を満たすという形でしか製品に関わりを持つことができず、「さらに快適な使い心地の追求」など夢のまた夢だったようだが、Appleの体制では、例えば効果音やフェードの効果一つで、体験が別物になると分かれば、作っている途中でもいくらでも、そうした製品のブラッシュアップができる。

 これでは出来上がりの製品の「魔法」に磨きがかかってしまうのはしょうがない。

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