ティム・クックCEOが思わずうなる、アップルブラックを生み出したこだわり(3/5 ページ)

» 2019年12月25日 15時00分 公開
[林信行ITmedia]

Appleは外のことを教えてくれる先生

 ここで、業界でよく聞くあの話が頭をよぎった。

 たまにAppleは、サプライヤーに無理難題を押し付けて苦しめているとか、搾取しているとかいったことを言う人たちがいる。そうしたことを糾弾する書籍も出ているが、セイコーアドバンスはAppleとの関係をどのように捉えているのか。

 加邊氏も「確かにAppleからは難しい要求もある」と認める。

 「契約も厳しいし、賠償金も大きいし、製造、品質、検査基準が非常に高く、全ての開発案件が超納期であるため、最初は抵抗感があった」

 しかし、その後「でも、それはいずれも正当性があることばかりだった」と付け加えた。

 Appleに「買いたたかれている」というサプライヤーもいるが、「我々は競合なしのオンリーワンの製品を提供しているということもあるかもしれないが、適正な価格で買ってもらっている」と加邊氏は語る。

 急な方向転換で大打撃を受けたというパートナーの話も聞くが、これについても、そもそもAppleとのビジネスの割合が大きいからといって、そこだけに頼らない体制を築いているが、その上でAppleは、毎年フォーキャストといって、その年以後の方向性の指針などを示してくれるので計画的に動くことができていると、Appleのやり方は正当だと捉えているようだ。

 それどころか、「Appleとの厳しい関係を通して得たことが非常に多い」とセイコーアドバンスの平栗哲夫会長兼CEOは語る。

セイコーアドバンス 加邊部長(左)と平栗哲夫会長兼CEO(右)。セイコーアドバンスの創業は1950年だ

 例えばAppleからの仕事の受注量が増えるに従って、Appleからは社員の教育の仕方や安全管理、就業規則から非常口の表示に至るまで、多くの事柄についてチェックや指導を受けたという。

 だが、「その内容はどれもまっとうで非常に勉強になった」と平栗会長は振り返る。

 「Appleの指導で目安箱を設けるように言われて、その日のうちに作ったが、これも社内で評判がよかった」

 実は面白いエピソードがある。このAppleの指導を受け、それを実践した後、日本では「働き方改革」が話題になった。

 だが、セイコーアドバンスでは、先にAppleの指導に従って就業規則などを変えていたので、改めて「働き方改革」をするまでもなく、さらに進んだ就業形態を取れていたのだと言う。

 だから、今回のクックCEOの訪問に合わせて、Appleが広めようとしている「クリーン・エネルギー・ファンド」のプログラムへの参加を勧められた時も即答で参加を表明した。

 「Appleは2018年には、自社で使う電力を全て再生可能エネルギーでまかなえる体制を整えました。でも、それだけではまだ十分ではありません。そこで我々は、我々と協業するパートナー企業に対しても、同様な再生可能エネルギーへの転換をお願いしています」(クックCEO)。

セイコーアドバンス Appleとサプライヤーが協力して発電した、2018年のクリーンエネルギーの総量は、おおよそ米国内の60万世帯以上に供給するのに必要な電力量に相当するという

 クリーン・エネルギー・ファンドは、それを支援するためのファンドだ。

 「Appleの指示に従って使用する電力を再生エネルギーに切り替えて、契約している中国の工場も切り替え、工場にソーラーパネルを設置する予定です。本当は1月からでも実行したかったのですが、経理上の期の関係で2月1日から実施することになりました」と平栗氏は語る。

 「それによって実質、年間で多少のコスト増にはなるが、やる価値はある」と加邊部長が付け加えた。

 「Appleは我々と一緒に働いてくれるだけでなく、我々に外部の情報をくれる、ある意味先生的な存在」だと平栗CEO。

 世の中にない新しい製品を開発、誕生させるために他のサプライチェーンパートナーを紹介してもらって、2社間だけでなく複数社協力の下、生み出された新製品もあるという。

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