セイコーアドバンスが、他を出し抜いて成功を続ける理由はもう1つある。
それは圧倒的な決断力の速さだろう。
今後の会社の運営においても、永続的にコストを発生させる先のクリーン・エネルギー・ファンドにしても、たったの1週間で採用を決断したと言う。
クックCEOの急な訪問を受けられたのも、真っ先に訪問を受け入れられると決断し返事ができたのではないだろうか。「他の企業ではなかなか、このスピードで決断はできない」と加邊部長は笑みを浮かべる。
平栗CEOは、常に経営のスピードを重視してきた人物だと加邊部長は語る。
サンプル品も含めて、頼まれたインキの提供は「納期2日」で臨んでいるという。
新たな案件を受ける際でも「上長の承認を待たないと先に進めないような組織はやめて、上長が捕まらないときには経営陣が組織の壁を超えて承認をできる体制にした」と平栗氏は言う。
同社が目指すのは組織の壁もない、家族に近いチームワーク。その中で必要な場所ではしっかりと権限委譲も行っていく。
加邊氏もApple専用チームの組織を任され、そこでの重要な決断についてはほとんどの権限が任されている。急な海外出張などでもいちいち誰かの承認を得る必要はない。
「Apple専用チームに関しては、そこに会社のマネジメントが入ってくれたのもよかった」と加邊氏は振り返る。
このため、加邊氏でも判断がつかない重要な決断を迫られた時でも、いちいち上長にお伺いを立てることなく素早い決断でAppleに返事ができたという。
Appleに製品の部材などを提供するサプライヤーは、日本だけでも900社以上ある。
その中には、Appleの要求の厳しさに困惑している会社もあるかもしれない。だが、中には厳しいAppleの要求に、それを上回るレベルの品質と速度で応えるセイコーアドバンスのような優秀な会社もあり、このレベルの会社に達すれば、競合無しのオンリーワンの仕事も任され、Appleと同列でお互いを高め合う存在になることもできる。
良い仕事をすれば、それを認めてさらに良い仕事が任されるという関係性に、筆者は希望を見いだした。
また、これだけ経済合理性や効率化が重視されるデジタル製品の世界でも、世界を圧倒する最高品質の製品は、相変わらず他を上回る泥臭い試行錯誤の連続から生み出されているのだ、という事実に尊さを覚えた。
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