セイコーアドバンスの見学の後、クックCEOに話を聞いた。
「強い衝撃を受けたのは、高品質にかける情熱、職人気質、そして細やかなところまで気が付く繊細さです。彼らはAppleの非常に短期間かつ野心的な納期のスケジュールの中で、驚くほど高品質な仕事をしてくれた。それを実際にこの目で見ることができてうれしく思う」
ただの色インキに、それほどの違いがあるのか、と思う人がいるかもしれない。
だが、例えば色1つをとっても大きな違いがある。
我々が一口に「黒」と呼んでいる色だけでも、実は何千という種類がある。
有名な黒色の1つに「ピアノブラック」と呼ばれる色があるが、実は同じピアノブラックでも、よく見るとグレー系のものであったり、拡大してみると赤や緑の要素が入っていたりするものがある。
加邊部長は語る。
「黒色だけではなくて、白色にしたって本当はいろいろなバリエーションがある。だが、その中でもAppleが選ぶ特殊な白は常に業界で一番美しい。彼らは色を厳しく追求して採用している」
では、そんなAppleのお眼鏡にかなったアップルブラックの特徴とは何なのか?
「機械で見ても、目で見ても程よい黒さがあること。そして、きれいな黒であることは大事なのだけれど、それに加えて一番大事なのは、ディスプレイを消した時に、ディスプレイの枠が見えないこと。つまり、ディスプレイと完全に一体化すること」
加邊部長はそう説明する。
確かに、画面を消した状態のiPhoneの正面を見て、ディスプレイの枠を見つけ出すのは至難の技だ。
「さらに難しいのは、それでいてしっかりと物性が伴っていること。この、色としての美しさと物性を両立させるのは本当に難しい」と付け加えた。
物性というのはいろいろあるが、熱耐久性や耐候性、耐水性、さらには落とした時に色がそこで割れたりしない、といったことなどを指している。
ミッドナイトグリーンも、冒頭で触れたように環境に配慮した顔料で緑を再現しただけではなく、その上でAppleが要求する高い物性の条件もクリアーしている。
「ミッドナイトグリーンの、もう1つの特徴は、iPhone 11 Proシリーズの、他の3色と色調があっていること」だと加邊氏は言う。
カラーバリエーションを用意した工業製品では、しばしば色が1個だけ目立ち過ぎて浮いてしまったうことがよくある。
Appleとセイコーアドバンスの2社は、1つのチームになって膨大な試行錯誤を繰り返して、あの4色にたどりついている。
実際、採用されたのは4色だが、セイコーアドバンスはその色にたどりつくまでに数百種類の色を試作しているという。
その色を1つ1つ吟味しながら、最終的にはAppleにいる色のスペシャリストが、あの4色を選び、カラーパレット(色の組み合わせの定義)を用意する。
ミッドナイトグリーンを含むセイコーアドバンスが作りだしたiPhone 11 Proシリーズの4色は、この膨大な労力をかけてたどり着いた至高の4色だったのだ。
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