Appleの「M1」チップ。IT業界で、これほど急速に認知を広め、圧倒的な地位を築いたブランドは久々ではないか。今や話題性でも実性能でも、プロセッサ開発を本業としたメーカーの製品も上回るほどだ。
そんなM1について、Appleは2つ新発表を行った。
1つは、モンスター級と呼ばれた「M1 Max」を2基接続し倍のパフォーマンスを達成したという脅威の新プロセッサ「M1 Ultra」を発表し「Mac Studio」に搭載したこと、もう1つはiPadの主流モデル「iPad Air」へM1プロセッサを搭載したことだ。
M1 Ultraで、コンピューティング性能の新しい地平を切り開く一方、iPad AirではM1製品の裾野を広げている。何せ新しいiPad Airの価格は7万4800円(64GB/Wi-Fiモデルの場合、税込み、以下同様)からだ。ディスプレイが別売りのMac mini(7万9800円)と比べても安く、今のところ最も手頃なM1搭載製品となる。
ちなみに、日本での価格は前のiPad Airより5000円ほど高くなってしまったが、これは為替レートの問題で、米国での価格は前モデルと同じだ。つまり、Appleは価格を変えずに従来よりも高性能な話題のプロセッサをiPad Airに採用したといえる。
2020年のM1の発表以降、Appleは「デジタル機器の価値が、プロセッサのグレードで決まる」というコンピューター業界が40年以上踏襲してきた常識を壊しにかかっている。
iPhoneでも、最も手頃な「iPhone SE」が最上級のiPhone 13 Proと同じ「A15 Bionic」プロセッサを搭載しているが、iPadでも普及モデルの「iPad」と「iPad mini」以外はM1で統一された。
もともと2010年に「スマートフォンとパソコンの間に新しい領域がある」として、その領域を埋める製品として発表されたiPadは、消費電力への配慮もあってiPhoneシリーズと同じプロセッサで作られた。性能的にはiPhone寄りとなっていたが、今後はM1の採用で性能的にはMac寄りになる。大画面、Apple Pencilに加えて高性能と、iPhoneシリーズとの区分がより鮮明になりそうだ。
ところで、上位モデルと同じプロセッサを他のモデルでも採用するというのは他社にはなかなか難しい戦略だ。SamsungやHUAWEIなどの例外はあるが、ほとんどのPCやタブレットメーカーはプロセッサを他社から購入している。
そして、既にその段階で性能の良い高速で高価なプロセッサと、性能が劣る廉価版プロセッサなどで価格の差が生じている。少しでも安く部品を調達しようとすると、上位モデルとそれ以外ではどうしてもプロセッサの性能に差をつけざるを得なくなる。その分、安い製品をより安く作りやすいアドバンテージはあるが、自ら体験価値の低い「安物」を売ってしまうことは自身のブランド価値を傷つける危険とも背中合わせだ。
デジタル製品選びにおいて、プロセッサ選びは常に頭痛の種だった。買う前には「性能が劣るプロセッサを選んだことで後悔をしないのか?」、「自分の用途にはこれで十分か」などと悩んだところで答えが分からない問いに苦しめられ、製品を使っているときも「やはり、ケチらずに高いモデルを買っておけばよかった」と本当にそうなのか分からない疑念に惑わされる。
これに対して、自ら製品も、そのプロセッサも作るAppleの製品選びは心地よい。
プロセッサモデルの違いもなければ、動作周波数(GHz)の違いもなければ、どのGPUにするかの悩みもない。
あるのはiPad Pro、iPad Air、iPad miniそしてiPadの4つの製品区分のみだ。
iPadをビデオ編集や写真の加工といった、負荷の高いクリエイティブな作業で積極活用している人は2つのサイズが選べるiPad Proがある。
それに対し、iPadを日々の生活や仕事で積極的に活用する人ならばiPad Airだ。
携帯性を重視したい人はiPad mini。
価格を重視したい人はiPad。
選び方も実にシンプルだ。
価格を重視してiPadを選ぶ人と、サイズを重視してiPad miniを選ぶ人はどちらを選ぶか答えがハッキリしている。
悩むポイントがあるとすれば、写真加工やビデオ編集もそこそこ行う人達だろう。あるところまで以上に活用する人はiPad Proで、それ未満の人はiPad Airなのかというポイントに尽きる。
ということで、以下ではiPad AirとProの差だけに注目して製品を考察したい。
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