未来を創る「子どもとプログラミング教育」

始めから“100点”を求めないことがポイント――茨城県守谷市が全小中学校のオンライン授業をいち早く実現できた理由(後編)(3/4 ページ)

» 2022年03月23日 12時00分 公開
[石井英男ITmedia]

クラスターの抑止+学びの継続=オンライン授業

―― 新聞やTVのニュースを見ていると、夏休みを単に延長したり、授業時間を短縮したり、分散登校を実施したりと、授業数や授業時間を単純に削減する方向で対策をした自治体が多かったように思います。さいたま市では「ハイブリッド授業」ということで登校とオンラインを選べるようにしていましたが、批判というわけではないですが“どっちつかず”になってしまいそうな気がします。先生方が教室にいる児童/生徒とオンラインで参加している児童/生徒の両方に目配せするのは難しいのではないかと。選べることは一見すると良いことのように見えるのですが、オンライン授業をするなら、オンライン授業に一本化した方がいいのではないかと思うのです。

奈幡氏 そこはオンラインで「実のある学び」をきちんと保証できるかどうかにかかっていると思います。「なぜオンラインで授業をするのか?」ということを突き詰めて考える必要があります。

 今回の守谷市の取り組み事例であれば、子どもを含めて新型コロナウイルスの感染が拡大していて、それ何とかする必要がある。そして、入院が必要になった場合の病床が逼迫(ひっぱく)した。ゆえに人を集めること自体がリスクになってしまいます。分散登校であっても“集まる”という事実は変わりませんので、集団感染のリスクは排除しきれません。特に児童クラブは密になりやすい面もあります。

 児童/生徒の安全と安心を確保するという大前提に立つと、学校内で集団感染のクラスターを発生させないようにしなければならない一方で、学びを止めるわけにも行きません。だからこそ、守谷市では安全/安心と学びの「二兎を追う」、一定の質をしっかりと確保した上でオンライン学習に踏み切ったのです。

 自宅での学習を前提とすることで、ご不便をお掛けしてしまった部分は当然にあるとは思っていますが、万が一お子さまが感染してしまったり、クラスターに巻き込まれてしまったりするリスクを考えて、ベターな方法としてオンライン学習を行うことにした、という側面もあります。

―― SNSを見ると、「分散登校や短縮授業であっても子どもを学校に登校させるのが不安だ」「子どもが新型コロナウイルスを怖がっている」といった保護者らしき方の投稿をちらほら見かけました。これだけ報道されると、ご家庭の判断として不安を覚えて子どもを「自主休校」させるのも仕方ないのかなと思います。こういう時にあえてオンライン授業に絞り込むのは、おっしゃる通りベターな方法だと私も思います。

さいたま市 「学校へ行くことの不安」と「学校に行くことの安心」の声の両方に応える側面から、さいたま市ではオンライン授業と実地授業を同時に行う「ハイブリッド授業」を実施した(出典:さいたま市、PDF形式)。しかし、準備不足のせいか、報道にもあった通りオンライン授業におけるトラブルが続出した。その反省を受けて、同市では冬休み前後に学校ごとに一斉接続テストを実施している

小学1〜3年生の端末貸し出しも今後対応

―― 少し話は戻るんですが、iPadの貸与は小学校4年生以上ですよね。小学3年生以下はどのように対応したのでしょうか。

奈幡氏 小学1年生から3年生にかけては、小学4年生以上とは発達度合いが違います。これら3学年をどうするかという点は、オンライン授業に当たっての課題の1つでした。

 まず、オンライン授業における保護者の皆さんの負担を考慮しないといけません。中学生ともなれば生徒が自力でオンライン授業をこなせると思いますが、小学1〜3年生となると、保護者の皆さんによる支援は欠かせません。児童が1人きりにならざるを得ないケースを含めて、教育委員会内ではかなり議論を重ねてきました。

 したがって、小学校1〜3年生に関しては、まず無理のないように、オンライン授業と(課題や教材において)紙媒体を併用することにしました。初日の授業では、初日から多くの子どもたちが問題なく接続できましたが、これは当然保護者の皆さまの支援があってこそだと思っています。

 先ほど申し上げたように、小学1〜3年生はiPadの配備が遅れています。セキュリティ対策の観点から、小学4年生以上と同様に端末を貸し出すのはどうなのかという議論はありました。その観点から、原則としてご家庭の端末(PCやタブレット)を使っていただく方向で対処しました。

 ただ、オンライン授業を長期実施せざるを得なくなった場合に備えて端末の貸し出しについても考えなければいけません。小学校の協力を得て実態調査をした所、多くはないのですが「子どもが専用できるPCやタブレットがない」というご家庭があることは把握しています。従って、iPadの配備が完了するまでは、Windowsタブレットも貸し出せる体制を今後整える予定です。

オンライン授業も「評価」に含める

―― 中学校だと、9月に入ってすぐに前期の期末テストがあります。この状況で成績に直結する定期考査(テスト)を実施するのは難しいと思うのですが、どうされたのでしょうか。

奈幡氏 おっしゃる通り、今までの定期テストをそのままオンラインで行うのは困難です。そのため、時期をずらして実施することで対応しました。

 守谷市では、オンライン授業を極力普通の授業と同様に行うことを基本方針としています。「授業の評価はどうするのか?」という点については、オンラインでも児童/生徒の学習状況は把握できる部分があります。文部科学省も、2020年度の臨時休校時にオンライン授業における学習状況を評価に反映しても良いという方針を示しています(参考リンク)。

 中学生の場合、生徒の評価材料として定期テストが大きい比率を占めることは確かですが、日常の学習状況も非常に重要な材料です。オンライン授業における発言、課題提出など、あらゆる要素を総合的に含めて評価を行うことになりますから、オンライン授業における取り組みも評価に含める方針を取りました。

文部科学省の方針 文部科学省では、2020年度の臨時休校時に指導要録(児童/生徒の状況記録)や成績評価に関する「よくある質問」をまとめている。その中で、自宅における学習状況も成績評価の材料として良い旨が盛り込まれている

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