―― オンライン授業について、実際の現場の先生や児童/生徒の感想を把握しているようでしたら教えてください。
奈幡氏 先生方としては、「子どもたちが目の前にいる」「ライブ(その場)で顔を合わせられる」ということが大きなモチベーションになります。そのため、オンライン授業は普通の授業と同じように進めたいと頑張ったようです。アンケート調査ではオンライン授業に後ろ向きな意見は1つも上がっていません。
児童や生徒に対するアンケートは厳密に取ったわけではありませんが、各学校の校長や先生方からの情報提供などによると「毎日オンライン授業を楽しみにしています」という声が寄せられたそうです。保護者を対象とするアンケート調査を実施した学校もあります。
判断の材料としてどの程度の精度があるか難しい所ですが、ネットニュースのコメント欄やSNSでの投稿を見る限り、守谷市内にお住まいの保護者と思われる方からの書き込みはおおむね肯定的でした。感謝の声を教育委員会に直接寄せてくださった方もいらしゃいます。逆に、クレームは1件も受け取っていません。
これも学校からの報告ですが、帰りの会で1日の振り返りをやると児童や生徒から「明日も楽しみ」「オンライン授業が楽しい」といった声も寄せられたそうです。学校に登校しづらい状況にある子どもがオンライン授業で発言してくれた事例もあります。担任、あるいは教科担当の教員にとっては、それが「もっと良い授業をやろう」というモチベーションにつながったそうです。
―― それは先生としてはうれしいですよね。
奈幡氏 教員はもちろんですが、クラスの子どもたちもうれしく感じたのだと思います。
今までなかなか同じ空間を共有しにくかったクラスのメンバーが一緒にいて、そのメンバーの声を、発表を聞くことができて、顔を見られるということはポジティブな感情をもたらしてくれるようです。これは小学校でも中学校でも報告が複数ありますので、オンライン授業の成果の1つだといえると思います。授業時間を対面授業と同様に設定するのが難しいことは課題ですが、今まで授業に参加しにくかった児童や生徒が参加できるということは大きな成果です。
教員の成果という観点では、チームで教材研究や授業参加に取り組むようになった点が挙げられます。小学校なら学年単位、中学校なら教科単位であれこれ工夫しています。校長からは「教員のチームワークが今までよりも良くなった」「人間関係がより円滑になった」といった声が届いています。
―― 逆に改善すべき点はあまりないですか?
奈幡氏 短期的にはありませんが、先に少し触れた通りオンライン授業が長期化した場合、授業時間の確保や授業進度が大きな課題になると思います。特に中学生の場合は「高校受験」というゴールがありますので、キチッと対応しなければいけない課題となります。
ただ、これは守谷市単体であれこれするのは限界もあります。学びの維持が全県的に難しいということになれば茨城県で、全国的に難しいということになれば政府で考えていくことになるのかなと思います。
―― 最後に、他の自治体へのアドバイスをいただけないでしょうか。
奈幡氏 非常に月並みですが、やれることから始めることが大切だと思います。
都道府県や市区町村には、それぞれの教育に対する考え方(方針)があり、実態を抱え、そして積み上げてきた実績というものがあります。オンライン授業をするとなると、まだゼロベースで始めないといけない面もあるかと思いますが「Web会議ツールでつながる」という点は現在なら容易です。児童や生徒はもちろんですが、教員や組織としての学校にも始めから「完璧」を求めてはいけません。始めから対面授業と同じレベルを求めるとうまく行かないものです。
町田教育長の言葉を借りれば、「100点を求めないで、オンラインも入れる子からちょっとずつ増えればいいじゃないか。やれるところから始めればいいじゃないか。失敗したらやり直せばいいじゃないか」ということです。そんな考え方でやった方が、結局はうまく行くのだと思います。
児童/生徒、保護者の皆さん、そして教員が一緒になってオンライン授業を作っていくという感覚も必要だと思っています。オンライン授業は、多くの児童/生徒を家庭に預けることになるわけですから。
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