PCに求められるスペックは多様化しているが、土岐氏によると大きく「高性能重視」と「効率性重視」に二分できるという。
この両方の使い方に対応できるCPUとして、同氏は第12世代Coreプロセッサを紹介した。この世代では、処理パフォーマンスを重視した「高性能コア(Pコア)」と消費電力当たりの処理効率を重視した「高効率コア(Eコア)」のハイブリッド構成を採用している(※1)。
スマホやタブレット向けのSoC(System-On-a-Chip)のCPU部分は、このようなハイブリッド構成を取るものがほとんどである。しかし、PC向けのメインストリームCPUでは事実上初めてだ。
(※1)デスクトップ向け製品の一部製品はPコアのみ搭載
土岐氏は、PコアとEコアを「走ること」に例えて説明する。
Pコアは短距離に最適化された走者だ。CPUの放熱設計にもよるが、フルパワーを出し続けることは難しい。しかし、出せる“フルパワー”は非常に強力で、短時間で処理を完了できる。短時間のみ非常に高いパフォーマンスを必要とする用途に向いている。
一方、Eコアは長距離(マラソン)に最適化された走者である。瞬発力こそあまりないが、そこそこ高いパフォーマンスを長時間に渡って持続できる。処理内容によっては、「短時間で超高性能」よりも「長時間に渡ってそこそこの性能」の方がゴール(最終的な処理結果)に早くたどり着けることもある。
問題は、短距離走の選手(Pコア)と長距離走の選手(Eコア)の出番を割り振る方法だ。Pコアが得意とする処理をEコアに割り振ったり、Eコアが得意とする処理をPコアに割り振ったりしてしまっては、宝の持ち腐れである。
その采配を取る“監督”に当たる機能が「Intel Thread Director(ITD)」である。ITDはWindows 11のタスクスケジューラー(処理をコアやスレッドに割り振るソフトウェア)と協調して動作するようになっており(※2)、処理の内容を分析してPコアまたはEコアに割り振るだけでなく、PコアからEコア、逆にEコアからPコアへの処理の移管も担っている。
「処理の移管?」と思うかもしれないが、1つのタスクでもPコアである程度処理が進んだらEコアに移した方が全体的な処理パフォーマンスを向上できることもある。一方で、ある程度Eコアで進めてきた処理をPコアで「最後の仕上げ」をすると全体的な処理時間を短縮できることもある。そう言う意味では、ITDは“交渉人(ネゴシエーター)”でもあるのだ。
(※2)Chrome OSのタスクスケジューラーもITDへの最適化を実施予定
一部を除きPコアとEコアのデュアル構成となる第12世代Coreプロセッサだが、過去世代と比べると性能に大きな違いは出るのだろうか。土岐氏はノートPC向けの第11世代Coreプロセッサ(開発コード名:Tiger Lake)と、ノートPC向けの第12世代Coreプロセッサの処理パフォーマンスを比較したグラフを示した。
このグラフでは、前世代のCore i7-1195G7(2.9GHz〜5GHz、4コア8スレッド)の最大消費電力におけるパフォーマンスを「100%」としている。このグラフを見ると、第12世代のCore i7-1265U(Pコア2基4スレッド+Eコア8コア8スレッド)は同じ消費電力のCore i7-1195G7を上回るパフォーマンスを発揮している。
その上位製品であるCore i7-1280P(Pコア6基12スレッド+Eコア8基8スレッド)は、最小消費電力こそCore i7-1195GやCore i7-1265Uよりも高くなってしまうが、同じ消費電力ならCore i7-1265Uよりもさらに高い処理性能を示す。
土岐氏はこれが、ハイブリッドコアの効果であると力説する。
PCの全体的なパフォーマンスを見る上で、土岐氏はCPUにおけるハイブリッドコア採用に加えてDDR5/LPDDR5規格のメインメモリへの対応、Wi-Fi 6E規格の無線LAN(6GHz帯のIEEE 802.11ax)の搭載(※3)、そしてPCI Express 5.0バスへの対応(※4)も大きな効果を持つという。
これらの効果は、以下の通り全て「自動車と道路」で例えられる。
第12世代Coreプロセッサは全体的に「速く快適に」が貫かれたCPUであるといえるだろう。
(※3)日本を含む多くの国/地域では6GHz帯での通信に非対応(その場合は2.4GHz帯/5GHz帯を使うWi-Fi 6として通信可能)
(※4)デスクトップ向け製品のみ対応
今後、第12世代Coreプロセッサ(Uプロセッサ/Pプロセッサ)を搭載するノートPCは2022年末までに250製品以上登場予定だという。土岐氏は「好みや実際の作業環境に応じてPCを選んでいただくことになるが、必ずや皆さんにふさわしい製品が登場するだろう」と胸を張る。
デスクトップPCも含めると、第12世代Coreプロセッサを搭載する製品はまだ少数派である。今後、搭載製品がどれだけ増えるのか、注目したい。
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