さて、そんなAppleによる資源のリサイクルは現在、どこまで進んでいるのか。
「2021年は、リサイクルされたタングステンや希土類元素、コバルトの使用量を倍増させることができ、Apple製品に使われている全ての材料の20%近くがリサイクルされるようになりました」とチャンドラー氏は言う。
チャンドラー氏によれば、その美しさゆえにAppleが多用する素材のアルミは、Appleの製造過程で最も多くの炭素排出をしていたという。Appleは、それまで使っていたアルミと変わらない耐久性と美しい仕上がりを維持しながらも、リサイクル材料で作られより炭素排出量の少ないアルミ合金を開発し、さまざまな製品で展開するなどの工夫を重ね、現在ではアルミによる炭素排出のフットプリントを70%も削減したとのことだ。
既にiPadシリーズの全ラインアップは100%再生アルミで作られており、MacBook Pro、MacBook Air、Mac mini、Apple Watchもボディーは100%再生アルミ、Mac Studioは80%、そしてStudio Displayはスタンド部分が100%再生アルミという段階にまで進んでいる。
希土類に関しては既に述べた通り、いくつかの製品で100%再生している。
タングステンは、2021年のApple製品で使われたタングステン全体の35%以上がリサイクル素材になっている。iPhone 12とApple Watch series 6のTapticエンジンで使われているタングステンは100%リサイクル素材で、これは製品全体で使われているタングステンの99%に相当する。2021年発表のiPhone 13やiPhone SEに関しても同様だ。
スズは全体の25%がリサイクルされている。これらはiPhone、iPad、MacBookそしてそれ以外の一部のMacの基板で使われている。最新のiPhone SE、iPhone 13シリーズの全ラインアップ、Mac Studio、MacBook Proと新しいiPad Air、iPad、iPad miniも100%リサイクルされたスズをメイン基板で採用している。
プラスチックに関しては、Appleはまだ同社が目指す最高水準の品質に見合う再生プラスチックを模索している途上だ。しかし、既にMac Studioでは25%以上のプラスチックが再生プラスチックになっており、iPad AirやiPhone SEでも35%と一定以上の割合で再生プラスチックを使い始めている。
特筆すべきはiPhone 13シリーズで、同製品のアンテナ部分は水のペットボトルを再生して作られている。化学的な処理で高い強度と高いパフォーマンスを実現した素材で、史上初となる試みだという。
多くのプラスチックは1度使ったらそれっきりで採用されない。Appleは2025年までに製品パッケージでのプラスチックの利用を完全に止めることを宣言しているが、現在のiPhone 13における取り組みだけでも年間で推定600トンのプラスチックの利用削減に成功している。
ちなみに、最近のAppleの製品パッケージは紙で作られているが、こういった紙の多くは再生紙を利用しており、再生紙でまかなえない分に関しては、使用した紙で消費した木材と同じ量、保管林の木材に投資するという取り組みを既に3年も続けているという。
このような現状を理解すると、次の新製品発表では、このリサイクル率の数字がどれだけ上がったのか、再生可能エネルギーを使うサプラやーがいくつまで増えたのか、と楽しみになるはずだ。
今回紹介した取り組みは、Appleが行っている3つの柱からなる環境への取り組みのうちのほんの一部分に過ぎないが、このほんの一部に対しても、かなり本質的に問題を掘り下げ、明確なビジョンに基づいて戦略を立て、数年間しっかりと努力を積み重ねてきたことが分かると思う。
こうしたAppleの環境への取り組みの記事を書くと、中には「偽善的行為」や「売名行為」といった心無いコメントを残す人もいる。偽善や売名にしては、明らかにコストや手間をかけ過ぎとしか思えないが、仮に「売名行為」だったとしても、「売名」だと非難することで自分を正当化し、何もしないでいる企業人と比べたら、はるかに人類の未来に貢献しているのではないだろうか。
さて、記事中でも紹介したが、Appleは5月31日まで古い製品の下取り価格をアップ中だ。こちらのTrade-Inのページから申し込むことで、新製品をより手頃に購入したり、Apple製品だけでなくApp StoreやApple Music、Apple TVコンテンツの購入にあてられるApple Gift Cardとして受け取ったりすることができる。
1個人が環境に対してできることは少ないが、使わなくなった古い製品を、正規の製品回収プログラムで回収してもらうことで、未来のApple製品作りに少しだけ貢献できる。
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