Macの進化が、新たなチャプターに突入した。Appleシリコン第2世代プロセッサ「M2」の登場だ。
2020年秋のM1登場は、PC業界にとって事件だった。最初に出たレビュー記事は「何かの間違いではないか」と疑われたが、同じ結果のレビュー記事が積み重なった後、やがて実際に製品を手にした人々からも同様の結果が寄せられたことで、このプロセッサの驚きのプライスパフォーマンスと、圧倒的な電力効率が認知された。と同時に、PC業界に激震が走り、他の半導体メーカーの株価にまで大きな影響を与えた。
Appleは、その後、プロセッサのコア(核)を増やした「M1 Pro」、GPU用のコアがさらに加わった「M1 Max」、そしてM1 Maxを2つ連結させた「M1 Ultra」と合計4つのバリエーションを展開。そしてM1発表から1年半後に、ようやく第2世代プロセッサのM2が発表された。
このM2を搭載した最初の製品が、今回レビューをする「13インチ MacBook Pro」と、全面リニューアルされた「MacBook Air」(7月発売)の2モデルだ。
キーボード最上段に、タッチパネル式キーボードの「Touch Bar」と物理Escキーを備えた13インチMacBook Proの製品形状は、IntelのCoreプロセッサ(開発コード名:Coffee Lake Refresh)搭載の製品として最初に世に出た(ただし、2019年はThunderbolt 3×4基モデルのみがこの形状だ)。
それ以来、見た目はほぼ同じのこの完成された形状で、Appleは2020年にAppleシリコンのM1、そして今回、2022年にM2(2022)と3世代のプロセッサを搭載してきたことになる。
なお、製品名にあえて毎回「13インチ」と入れているのは、現在のMacBook Proは、画面のインチ数ごとに全く異なる個性を備えた3モデルがあるからだ(他のインチのモデルはTouch Barを搭載しておらず、サイズ以外の点でも見た目が違う)。
新製品最大の特徴となるM2は、Coreプロセッサ搭載モデルと比べると、性能/電力効率ともに飛躍的な向上を遂げている。一方、2020年秋登場のM1モデルと比べると、1年半分の順当な性能向上を感じさせる(確かに速くなっているのを感じるが、劇的というほどではない)。
もっとも、いくつか例外があり、急速な勢いで増えつつある機械学習などのAI的な機能で動作するアプリでは最大で40%の性能向上を、さらに高品質なProRes動画の編集においては2.9倍(290%)もの性能向上を発揮することがある。コストパフォーマンスの高いビデオ編集機を求めている人にとって、この13インチMacBook Proは、非常に良い選択肢となるはずだ。
7月発売予定のM2搭載MacBook Airとの違いが気になっている人も多いだろう。どちらを買うか悩んでいる人は、1カ月待ってMacBook Airのレビューを読んだり、実機に触れたりして決断するのが賢明かと思うが、基本的にMacBook Airと13インチMacBook Proの違いは、本体の形状と重さ、そしてプロセッサの空冷機構の有無だ。
昨今のプロセッサは、高い負荷をかけ続けてオーバーヒートしそうになると性能を落として加熱を防ぐようになっているが、Appleシリコンは、特にこの調整をうまくやっており、だからこそ最大で20時間もバッテリーが動作するような電力効率の良さを達成している。
つまり、本体の動作温度をいかに低く保つかが、性能を左右する大きな要となっている。
これをファンを使って冷却するのがMacBook Pro、ファンを使わずに内部機構のデザイン上の工夫だけで行っているのがMacBook Airというのが両製品の機構上の違いだ。
M2搭載のMacBook Airはカラーバリエーションこそ増えたものの、製品の形状としてはMacBook Proに寄ってきた。M1搭載のMacBook Airは手前が薄く奥に行くほど厚みがある形をしていたが、M2搭載MacBook AirはこのMacBook Pro同様に厚みが一定の角丸の直方体だ。両製品を閉じた状態で横に2台並べて上から見ると、パッと見、どちらがどちらだかすぐには分からない(底面の見た目は異なる)。
側面から見ると液晶画面の裏側にわずかなふくらみを持つのが、この13インチMacBook Proの方で、この膨らみや内蔵ファンなどの機構が約160gの重さの違いを生み出している(MacBook Proの方が重い)。
M2版のMacBook Airは、製品発表会場で触ったとはいえ10分未満なのでちゃんとした比較はできないが、M1版MacBook Airとの比較で言うと、基本的に夏場に写真加工アプリやビデオ編集アプリでしばらく作業をしているとキーボード全体から熱を感じるようになり、しばらく作業をした後は手に感じる熱の不快感からしばらく作業を止めるか、外付けキーボードで作業をすることになる。
一方の13インチMacBook Proは、負荷の高いソフトを利用し続けると、キーボードからわずかに熱を感じるようになるが、それに合わせて低音で静かなファンが回り始め、本体がさらに熱くなることを抑制してくれる。ちゃんとした検証を行えていないが、一度、熱くなったキーボードが常温に戻るまでの時間もMacBook Proの方が早い印象がある。
写真加工やビデオ編集などの作業が多い人は、MacBook Proの方が長時間快適な作業が行えるのではないかと思う。
M2ではなく、M1のMacBook Airとの比較では、空間オーディーオにも対応したハイダイナミックレンジステレオスピーカーの音質も素晴らしいし、さすが「Pro」製品と感じる部分もある。
その一方で、悩ましいのが、プロセッサやロジックボード以外は基本的に3世代変わらない仕様を踏襲していることだ。ビデオ会議などに使う内蔵カメラは、今となっては少し画質が見劣りする720p画質のもののままだし(MacBook Airは1080pの高画質カメラを内蔵)、電源アダプターも従来通り(MacBook Air上位モデルにはデュアルUSB-Cポートのアダプターが付属)だ。
そして何よりも大きいのが、M2搭載MacBook AirではMagSafeという電源供給専用のポートが追加されたおかげで、2基あるThunderbolt/USB4ポートが他の用途に使えるが、13インチMacBook Proでは2基のThunderbolt/USB4ポートが電源供給も兼ねているため、電源につないで複数の周辺機器を利用するにはUSBのハブなどが必要になってしまう。
最も周辺機器などをたくさん繋げての作業などをしたい人は、MagSafe3とThunderbolt 4/USB4を3基備えた14インチまたは16インチMacBook Proを選んだ方が賢明だろう。これらの製品が装備するM1 ProやM1 Maxは第1世代プロセッサではあるが、13インチMacBook Proが搭載するベーシックなM2プロセッサよりは現状、優れた性能を発揮している。
そう考えると、新しいMacBook Proは製品の位置付け的には高コストパフォーマンスの作業マシンを狙ったものだと考えられそうだ。ビデオ編集や3D製作、プログラミングなどの業務をこなす空冷ファン内蔵の安定した長時間動作環境を、M2版MacBook Airとほとんど変わらない価格で実現しているのが特徴の製品ということだ。
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