なかなかSoCの話に向かわないのは、4nmの製造プロセスに切り替えたという「A16 Bionicチップ」のトランジスタ数が150億個から160億個と10億個しか増えていないということもある(「しか」というには少々語弊があるかもしれないが……)。
A16 BionicチップのCPUコアは、2基のパフォーマンスコア(Pコア)と4基の高効率コア(Eコア)の計6基構成と、数だけ見るとA15 Bionicチップから変わりない。筆者の推測だが、性能も大きくは変わっていないと思われる。
現時点でも、A15 BionicチップのCPUコアはスマートフォン向けSoCとしては高性能な部類だ。特にEコアの性能には定評があり、ほとんどの処理はEコアだけで済む(≒Pコアの出番はあまりない)のではないかと言われるほどである。
基調講演では「PコアはA15 Bionicから20%の電力削減」「Eコアは競合の3分の1の電力で同等の性能を発揮できる」という説明があった。ここでいう「競合」はQualcommの「Snapdragon 8 Gen 1」のことを指していると思われるが、A16 BionicチップはEコアの出来の良さを洗練する方向で開発された可能性もある。
機械学習データの処理を担うNeural Engineについては、演算スループットが最大毎秒16兆回と、A15 Bionicチップの15.8兆回から微増にとどまっている。これは動作クロックの違いによる差と考えるのが妥当だろう。
GPUコアは5基構成で変わりないが、メモリの帯域幅はA15 Bionic比で1.5倍に拡大された。メモリの帯域幅が広がった分だけパフォーマンスも改善していると思われるが、肝心のグラフィックス性能の説明は無かった。
ここまで踏まえると、A16 BionicチップはA15 Bionicチップと比べてユーザーが体感できる「大きな違い」が少ない可能性もある。
ただ、カメラの映像を処理するISP(画像信号プロセッサ)は大きな改良が施されている可能性が大きい。先述のクアッドピクセルセンサーを使いこなすには、ISPの性能も大きな鍵となるからだ。
加えて、iPhone 14 Pro/Pro Maxだけに採用される新型のディスプレイとTrueDepthカメラに関連して、A16 Bionicチップはディスプレイエンジンも刷新している。これにより、画面の常時表示(Always-on Display)、きめ細かいリフレッシュレートの制御とハードウェアベースのアンチエイリアシング(画面のギザギザを軽減する処理)を実現した。
アンチエイリアシングは、新形状のノッチを生かした新しい通知機能「Dynamic Island」を見やすくする上でかなり役立つ。Dynamic Islandの表示はかなりスムーズだが、これはGPUのメモリ帯域幅拡大の効果と見ることもできる。
iPhone 14 Pro/14 Pro Maxをじっくり見てみると、iOSそのものの改良――例えばコンプリケーション表示をサポートする新しいロック画面、アニメーションを伴うDynamic Islandの表示手法など――と“連携”した部材やSoCの改良/開発が行われていることがよく分かる。
今回の“Pro”は、さまざまな新部材や新技術を使って付加価値を高めるという方向性を徹底しているように思える。新し物好きのユーザーだけでなく、開発者のモチベーションも高めてくれる存在といえるかもしれない。
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