2023年のアクセシビリティー機能の改善でコミュニケーションを重視したApple。もう1つの注目新機能は、発話アクセシビリティー「Live Speech」の提供だ(今のところ英語だけの提供)。
声帯の病気などで声を出せない人はもちろん、咽頭炎などで一時的に声が出しにくい状態の人の役にも立つ。
入力した文字をiPhoneが読み上げてくれるという機能で、目の前にいる人にスピーカー経由で聞かせることもできれば、電話で通話している相手に聞かせることもできる。定型分を登録しておくことも可能なので、例えば「今、声が出せない状態で、代わりにiPhoneの声で応答しています。そのため返事が数テンポ遅れてしまいますが、ご理解ください」といった文を(英語で)登録しておくこともできる。
Appleは、既にiOS 11から打ち込んだ文字をSiriに読み上げさせる機能などを搭載していたが、Live Speechはロック画面を含め、iPhoneがどんな状態にあっても使えることが大きな特徴だ。
実はこのLive Speech機能、もう1つ大きな特徴がある。例えばALS(筋萎縮性側索硬化症)などの進行性の病気で、徐々に発声ができなくなっている人向けに自分の声色を記録し再現できるようにした「Personal Voice」という機能が用意されているのだ。
Appleはこの機能の開発にあたって、ALSを発症したアメリカンフットボール選手のスティーブ・グリーソン(Steve Gleason)氏が立ち上げたALS患者支援のためのNPO「Team Gleason」と協業した。同NPOの調査によれば、ALS患者の3分の1は、進行性の病気でいずれ自分の声で話せなくなるという。そして、それは多くのALS患者が非常に恐れていることだともいう。
自分の声質を再現する音声合成サービスはこれが初めてではなく、他にもいくつか存在しているが、その多くは特別な機械が必要で非常に高価なサービスとなっていた。
Personal VoiceはiPhone/iPad/Macの標準機能として無料で利用できるだけでなく、150のフレーズを読み上げるだけ、15分未満の準備で利用が可能になるという点でも画期的だ。
作成した声は、Live Speech機能を使って利用可能となる。
2018年にALSを発症したTeam Gelasonのボードメンバーであるフィリップ・グリーン(Philip Green)氏は「自分に似た声で、愛していると伝えることができれば、それだけで世界が大きく変わります。たった15分ほどでiPhoneを使って自分の合成音声を作ることができるのは、ものすごいことです」と使用した感想を述べている。
この機能についても、AssistiveWareのニーマイヤー氏に意見を聞いた。AssistiveWareは、自閉症の子どもたちに言葉を伝える手助けをする「Proloquo」というアプリを提供し、英語圏とスペイン語圏で大きな人気を博している。
同社は子どもたちが大人の声で発声する違和感を解消すべく、アメリカのいろいろな地域のアクセントや、英語とスペイン語のバイリンガルの子どもの声などをサンプリングして、子どもの合成音声でアプリを利用できるようにしてきた会社だ。
Live SpeechとPersonal Voiceについて、「声は私たちのアイデンティティーの重要な一部です。私たちは通常、そのようなことを考えることはありませんが、声は顔と同じくらい個人的で不可欠なものです。声を失った後でも、その人らしく声を出せることは、声を失った人にとっても、その家族や友人にとっても重要なことです。音声合成の優れた音声はたくさんありますが、自分の声と同じように聞こえたり感じたりするものはありません」(ニーマイヤー氏)
そして「パーソナルボイスを作るハードルを下げることで、声を失いかけている多くの人がパーソナルボイスを録音する可能性があります。私の経験では、声が出なくなる人は、そのことを理解するのに時間がかかると言われています。多くの場合、声が出なくなってから録音を始めるので、録音品質が悪くなったり、手遅れになったりすることがあります。しかし、この技術では15分もあれば特別な録音機材も、資金援助も、料金もかかりません」と、その簡便さも高く評価した。また多くの類似サービスがクラウド型なのに対して、デバイス上で音声が作られプライバシーが守られる点も同様に高評価だった。
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