X(Twitter)が広告収益を還元しても「悪質投稿」は増えないと思う理由本田雅一のクロスオーバーデジタル(2/3 ページ)

» 2023年08月22日 12時00分 公開
[本田雅一ITmedia]

インプレッション稼ぎの「無責任投稿」が増えるのは杞憂か?

 筆者がすぐに思いついた懸念としては、いわゆる“パクツイ”を始め、一時的なインプレッション増加を狙った「無責任な投稿(ツイート)」が増加することだった。しかし、筆者なりの結論を先にいえば、この心配は杞憂(きゆう)に終わりそうである。

 無責任投稿にはいくつかのパターンがある。例えばパクツイは、多くの人が“食い付く”ような「なるほど」と思える他人の投稿を、丸々自分の投稿であるかのようにようにポストすることである。普遍的な内容ならば、話題が収まった後、再び投稿することで同じように“バズ”を生み出せることが少なくない。

 あるいは、バズだけを生み出せればいいのなら、無責任な投稿であっても構わないと考える人がいてもおかしくない。眉をひそめるようなことや、そもそも事実確認ができないよう話を、著名人アカウントに対して引用投稿(引用リツイート)を行えば、もしかすると著名人自身、あるいはそのファンに「拾って」もらうことで非難が殺到して、インプレッション“は”稼げるかもしれない。

 世の中のトレンドになってる話題の中でも、特に注目を集める投稿に対して真っ向から否定したり、バカにするようなコメントをするといったあおり投稿も、そういう意味では「効果的」だろう。むしろ、誰もが関心するような素晴らしい「作り話」で感動させてインプレッションを稼ぐのは、ハードルが高いかもしれない。

 いずれにしろ、インプレッション狙いの投稿が増えていけば、結果的にXのタイムラインの質が下がることは間違いないだろう。このことは、長期的には広告の出稿主からの“失望”を生み出しかねない。それにあせって、偽物商品や詐欺サイトへの誘導などの広告を許容するようになったらおしまいである。還元される収益もゴミ程度になり、もはや収益化の話題など誰もしなくなるかもしれない――そう考えていた。

無責任投稿 インプレッションを稼げば稼ぐほど収益を得やすくなるため、「ネガティブな投稿が増えるのでは?」という声もある。現に、筆者もそう考えていた

 あくまでも想像の範疇でしかないが、この収益分配をネタにして「X崩壊への序曲の物語」を書けないこともない。しかし、さすがにXもそこまでバカではない。

 まず、X自身の声明やさまざまな観察を通して、収益分配は実際に表示された広告に基づいて行われていることが分かった。「そんなの当たり前だろ」と思うかもしれないが、ここでポイントとなるのが、「注目を浴びるツイートをすると収益が上がる」のではなく、あくまでも「表示された広告に応じて収益が計上される」という点である。

 YouTubeなどもそうなのだが、広告による収益分配システムは、一般的に表示される広告によって“単価”が異なる。その内容についても、通常はアカウントの投稿/検索内容によって変わる。これらの特徴は、Xの広告もご多分にもれないはずだ。

 例えば筆者の場合、ほんの1年前ならば投稿内容の多くが「デジタルデバイスやオーディオ、映像機器の話題」に特化していた。このような製品の購買に“直結する”話題の広告は、一般的に単価が高くなる。

 しかし最近は、自分自身の趣味である「ブラジリアン柔術とそのトーナメントへの出場」に関する投稿が多い。この話題に関する広告は恐らくあまりなく、あって表示されたとしても単価が高そうなテーマ(広告)には結びつかない。

 推測に基づく例でしかないが、結局のところ、収益の還元は投稿をしている人を取り巻くコミュニティの経済的価値に連動している。必ずしも“比例”とはいえないかもしれないが、価値の低い投稿しかしない利用者に多くの収益が戻ることはないだろう。

マネタイゼーション YouTubeにおける広告の収益は「Google AdSense」と同じ基準で計算されるので、表示される広告の内容によって変動が生じる。単純に再生数やチャンネル登録者数だけで決まる訳ではない。このことは、Xの収益還元も同様であると思われる

 加えて、「流し読みされる投稿」も、収益にはあまりつながらないと思われる。このことも、Web広告の仕組みを考えると当然といえば当然である。

 広告の収益が「投稿者の収益」になるには、その人の投稿がクリックされなければならない。投稿が表示されると、関連する広告が表示される。「この人はどんな人だろう?」とプロフィールを確認すべくアカウント名がクリックされると、さらに広告が表示される。「お、面白そうだな」と過去の投稿をさかのぼっていくと、その分だけ広告が表示される。その積み重ねが、収益につながっていくのだ。

 ここで書いていることは、Xでの収益に関して言及しているアカウントの属性や内容、収益などを観察しての推察も含まれているが、少なくともXが狙っているのは「炎上狙いなどのあからさまなアクセス稼ぎ」ではなく、あくまでも「自社(X)にとって有益な質の高い情報を発信する人への優遇」だろう。

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