auスマホとStarlinkとの“直接通信”は使い物になる? 海上での「緊急通報」を考える海で使うIT(2/3 ページ)

» 2023年10月25日 17時50分 公開
[長浜和也ITmedia]

音声による緊急通話に対応できるメリットは大きい

 音声通話に対応する「衛星電話」サービスは、既に複数提供されている。しかし「Inmarsat(インマルサット)」や「Iridium(イリジウム)」といった海外でも利用できるタイプのサービスは、常に国際通話扱いとなるため(独自の「国番号」も割り当てられている)、基本的に緊急通報を利用できない

 ソフトバンクがThuraya(スラーヤ)と提携して提供する「ソフトバンク衛星電話」は国内の緊急通報に対応しているものの、警察に通報する場合は通報先を識別する番号の付与が必要で(※4)、消防/救急は東京都(東京消防庁)宛のみ対応している。海上保安庁への通報は、普通の携帯電話と同様に「118番」に通話すればいい。

 NTTドコモが独自の衛星を使って提供する「ワイドスターII」「ワイドスターIII」についても、緊急通報には対応しているがソフトバンク衛星電話と同様の制約がある。

(※4)都府県警察本部単位(北海道は「方面本部」単位)で番号が割り当てられている

緊急通報 NTTドコモのワイドスターII/IIIでは、国内の緊急通報に対応している。ただし、警察への110番通報時は通報先の都府県(北海道の場合は方面)を指定する必要がある他、消防/救急の119番通報は東京都(東京消防庁)宛のみ対応している。この点はソフトバンク衛星電話も同様だ

 詳細な仕様はまだ分からないが、auスマホ×Starlinkによる衛星通信は、恐らくドコモやソフトバンクの衛星電話と同じ仕組みで緊急通報を提供することになると思われる。この連載の本旨に沿って「洋上での遭難に対する緊急通報」を考えると、シンプルに「118番」通報すればOKとなる可能性が高い。

 救難活動では、状況をいかに迅速にかつ詳しく把握できるかが成否に大きく影響する。それだけに、それだけに通報に要する手間と労力は可能な限り簡素化できるのが望ましい。

 その点からiPhoneの衛星通信を鑑みると、現在はそもそも日本では利用できない。また、利用できる国/地域であっても、公的な緊急通報機関に直接通報されるわけではなく、「リレープロバイダ」と呼ばれる民間の救助コーディネート組織につながる(2023年10月現在、リレープロバイダに関する詳細は公開されていない)。

 リレープロバイダを介する方法には、救難活動に慣れた(理解のある)スタッフが冷静かつ合理的に対処してくれるというメリットはある。しかし一方で、どうしてもワンクッション以上のアクションが介在することによるレスポンスの遅延は避けられない。

Appleの場合 iPhoneで衛星通信による緊急通報をする場合、リレープロバイダと呼ばれる救助コーディネート組織を介して通報が行われる

 それに対して、要救助者と緊急通報機関の担当者が“直接”音声で会話できる安心感は大きい。「動揺した要救助者が、必要な情報を的確に伝えられるのか?」「遭難するほどの過酷な環境でも十分な会話ができるのか?」という疑問はごもっともだが、その場合でも「緊急通報位置通知」に対応しているスマホなら、衛星で測位した位置情報が自動で緊急通報機関に送信される。

 一方、衛星による測位に非対応の(または無効な)端末でも、通信中の基地局の位置から算出された大まかな位置情報が送信される。この場合、今回KDDIが取り組んでいるような衛星との直接通信となると、基地局(=衛星)がカバーするエリアが非常に広大なので、位置を特定するのが困難となる可能性は否定できない。ゆえに、可能な限り口頭で位置を伝達することも忘れてはいけないだろう。

 救難組織に要救助者の位置情報を提供できるという意味において、衛星通信できるスマホは本船(航洋船)に搭載が義務付けられている救難設備「EPIRB(イーパブ:衛星非常用位置指示無線標識)」と同じような働きを期待できる。法定装備ではないものの、かなり有用な“救命設備”の1つとなるだろう。

 もっとも、スマホで一定の丈夫さ操作性を確保できること(特に荒天時)や、衛星との通信を確実に確保できることが前提ではある。

編集部補足:緊急通報時の測位について

 電気通信事業法の規定によって、日本では緊急通報に対応する電話回線(※5)には、緊急通報時に「通報箇所(位置)」の通知を行う機能を実装することが義務付けられています。日本の携帯電話(スマホを含む)では、端末が測位衛星で捕捉した位置情報(または基地局との通信状況によって算出された位置情報)が通知されます。

 位置情報の提供を拒否したい場合は、番号の前に「184」を付けて番号非通知で通報してください(※6)。ただし緊急通報機関が必要と判断した場合は、非通知通報でも位置情報を取得することがあります(拒否できませんが、取得された場合は原則として通知が出ます)。

 なお、衛星による測位、基地局による測位のいずれも、実際には誤差が生じる場合があるので、可能な限り口頭でも位置を伝達してください

(※5)いわゆる「市外局番/市内局番」が割り振られる固定電話/IP電話と、070/080/090で始まる番号を持つ携帯電話
(※6)発信時に非通知番号を自動付与する機能を備えている機種の中には、緊急通報番号に限りに機能を無効とする(≒184を付けずに発信する)ものがあります。緊急通報時に番号を通知したくない場合は、面倒でも184を付けて発信することをお勧めします

緊急通報 緊急通報に対応する電話回線には、発信元の所在地を通知する機能を搭載することが義務付けられている。携帯電話の場合、端末の測位機能と基地局の位置情報によってそれを担保している

 しかし、洋上での緊急通報という観点では「発信する場所」も課題となる。

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