ステージ上のスクリーンを使いながらたけしくんが全体に向けて、細かい箇所は班にいる研究員が説明するというスタイルで、実習は行われた。
まず行うのは、Rootを専用ポーチから取り出すことだ。みんなワクワクしながら、しかしお行儀よく、ポーチを開けてRootを取り出す。
Rootの電源を入れてから、iRobot Codingアプリの入ったiPadとペアリングをする。体育館内に、10台ほどのRootがあるため、探すのも大変だ。しかし、自分たちの班のRootを見つけると、いともたやすくペアリングを行っていく。さすがデジタルネイティブ、学校では小学1年生からiPadに触れているだけあるな、と感心した。
全員の準備が完了したことを見届けたたけしくんが、今度はiRobot Codingアプリ画面の下に並ぶブロックの説明をしていく。「真っすぐ進む」「右に曲がる」「左に曲がる」「光らせる」など説明。ブロックを上の段に移動させることでプログラミングできると分かるやいなや、子どもたちは戸惑いやためらいを見せず、すぐに操作して確認をしていた。
プログラミング方法と、意図しない動きのブロックを入れてしまったときの削除方法などについてレクチャーを受けた後、子どもたちには2つのミッションが与えられた。1つは左下のスタート地点から3回向きを変えて右上のゴールにたどり着くというもの。2つ目は、そのゴール地点から、再度スタート地点に戻すというものだ。
小さいロボットを扱えるようになったら、今度はルンバそっくりの大きめロボットの登場だ。折りたたみ式ホワイトボードも、それに応じたビッグサイズのものに変えられた。
「ルンバだー!」と、はしゃぐ子どもたち。「掃除できるの?」「できないんだ」などと抱えながら口々に話す。
たけしくんが、「iPadとつなげたら、さっきのプログラミングで動かしてみよう」と促すが、「あれー、さっきはうまくいったのに」という声があちこちから聞こえてくる。
似たようなタイルなので、「まっすぐ進むを2回」というプログラミングで、大きいタイルの上も同じように動くと考えたからだ。
たけしくんは「ロボットが大きくなっていることがヒントです」と語りかけてから種明かしをする。「実は、タイルを認識しているのではなく、『何cm進む』というコマンドだったんです」。
「さっきのタイルの大きさは16cmで、こちらは40cm。そこの数字を変えなくちゃいけない。画面下のレベル2を押すと、16という数字がたくさん入っていますよね。これを40に変えると、正しく動くようになりますよ」(たけしくん)
同じプログラムに見えても、数字を変えることで移動距離が変わるということを自然な形で理解させる。プロのエンジニアであり、教育にも携わってきた人たちだからこそできる技だと考えさせられた。
最後のミッションは、障害物を避けつつ、必ずチェックポイントを通過してゴールにたどり着くようプログラミングする、というものだ。これは、最新のルンバが障害物を検知すると、避けて掃除を行うことに引っ掛けたもの。本物のルンバはセンサーで検知するが、検知したあとに「避ける」という動作がブログラミングあってのものだということを知ってもらうのが狙いだ。
実際に、タオル、サンダル、ワイヤードイヤフォン、靴下といった障害物と、チェックポイントの目印となるシートが各班に配られ、スクリーンに映し出されているのと同じ場所に置いていく。
その後、マーカーを使って折りたたみ式ホワイトボードにルートを書き込んでいくのだが、筆者自身、どうやったらチェックポイントを確実に通過してから、ゴールにたどり着けば良いのか頭をひねってしまった。
そのような中、斜めの線を書き込んでいる班があった。「直角にしか方向転換できないのでは……」と考えていたところ、その班の子どもたちは、見事に斜めにCreate 3を自動運転させて、ゴールにたどり着かせたのだ。
これにはコリン氏も驚きと興奮を隠せないようで、「なんて革新的な考え方をするのでしょう!」と満面の笑みで子どもたちをほめていた。
これは、先ほど「レベル2」を開いたときに、角度の数字が入っていることに気づいたことから、試してみたのだという。発想の柔軟さに驚かされた。
全ての実習を終えてから、体育館の前方に集まり、本物のルンバの動きを確認した。水色の枠の中だけを動くようプログラミングされたルンバが、目の前に障害物が現れると自動的に止まり、向きを変えるのも、実はプログラミングされたからだ、ということに納得した子どもたち。最後に、コリン氏から子どもたちそれぞれの名前入り「ルンバエンジニア修了カード」を首にかけてもらい、誇らしげに眺めていた。
授業後、下北沢小学校の大字弘一郎校長、コリン氏、授業を受けた児童3人がそれぞれ囲み取材に応じてくれた。
大字校長によれば、高学年ではなく、低学年のクラスを選んだのは、「アイロボットジャパン側」とのこと。選んだ理由は、「興味を持ちやすく、トライアンドエラーを楽しめるほど考え方が柔軟で、うまくいったときの感情を表現しやすいから」ということのようだ。
「普段の教員ではなく、ルンバを作った本物のエンジニアが教えてくれることで、学びが生活と直結したのではないだろうか。しかも、今日は本物中の本物(コリン氏のこと)が来ているから、子どもたちも家に帰ったら『ぼく、ルンバ、作れるよ!』と家族に話すかもしませんね」(大字校長)
コリン氏は、「子どもたちの考えの柔軟さに驚いた」と感想を述べた。「早ければ早いほど、上達は早い。学校では5年生からプログラミング授業があるが、ご家庭では早い段階から教えてあげて欲しい」と日本でのプログラミング教育に期待を寄せていた。
「今度は、子どもたちではなく、先生に教えるのもいいかもしれない。うちの息子は2歳半だが、もうプログラミング思考を身に着け始めている。Rootではなく、LEGOだけどね!」(コリン氏)
子どもたちは、今回の授業を「ロボットを実際に動かせること、頭を使うところが楽しかった」「障害物を避けながら、チェッポイントを必ず通過させるのが難しかった」「Rootは小さかったから、動かすのが簡単に感じたけど、ルンバ(Create 3)では大きくなったので、一気に難しくなった」と感想を語っていた。
また、コリン氏の登場については「動画だけだと思っていたのに、本人が来てくれて、感動しかない」と笑顔を見せていた。
受けた影響については、「身の回りにあるいろいろなものとプログラミングが関係していることが分かったので、そういう仕事も選べるんだなぁと、将来の夢が広がった」とアイロボットジャパンの社員が聞いたら泣いて喜びそうな回答をしていた。
また、斜めに移動させてミッションを成功させた児童は「回転を90の半分にして、動かしたら斜めに動いた。斜めと斜めをうまく組み合わせたらうまくいったので、実行してみた」ということを語り、トライアンドエラーの精神を垣間見ることができた。
チームを組むことについては、「1人だと分からないことも、みんなで話し合えば、思い付くことがあるし、分かることがある。1人じゃできないこともみんなだとできるから、それがいい」とメリットを語ってくれた。
STEMに力を入れているアイロボットジャパンは、世田谷区にRoot rt0を100台寄贈した。この寄贈式には、コリン氏と大字校長のほか、世田谷区長の保坂展人氏、アイロボットジャパンの挽野元社長(代表執行取締役員)も登壇した。
コリン氏は「プログラミングは世界共通の言語。自らの手で未来を作れるものだ。アイロボットは子どもたちが非常に重要なこのスキルを学ぶのを手助けするために、Rootを作った」と語り、Root rt0を世田谷区長に手渡した。
保坂氏は、「プログラミングを親しみやすい形で学べる、このようなツールにワクワクしている。プログラミングは教科として、組み込まれているが、Rootを使って自然に楽しみながら親しめば、これが子どもたちの良い原体験になる。将来が楽しみだ」と期待を述べた。
100台のRoot rt0は、下北沢小学校で20台を使い、ほかの80台を各小学校へ配分するという。5年生からといわず、もっと早い段階でもプログラミング思考を得ることができること、むしろ早ければ早いほど、自然な形でプログラミングに親しめるということを学べる授業であった。
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