ソニー、川崎重工、ユーハイム、パイオニア──各社が訪れる、MicrosoftのAI開発拠点が目指す道 実際に足を運んで実態を見てきた大人の社会科見学(3/3 ページ)

» 2023年12月20日 18時22分 公開
[笠原一輝ITmedia]
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川崎重工業、ユーハイム、パイオニア、ソニーセミコンダクターなどが成果をデモ

 こうして開発されたAIアプリケーションは、顧客の同意が得られた一部がMicrosoft AI Co-Innovation Lab(神戸)に展示されており、Microsoftの顧客企業が実際に見られるようになっている。川崎重工業やユーハイムといった地元企業の展示はもちろんのこと、パイオニアやソニーセミコンダクターのような日本を代表する企業の展示も用意されている。

 川崎重工業の展示はデジタルツインの工場向けロボットソリューションで、ロボットの設定をMRデバイス「HoloLens 2」で行える他、人間が介入することでロボットだけではなしえないトラブルへの対処などを実現する。また、ロボットの動作テストなども仮想空間の中で行えるので、実際の現場を止めずに書いたコードの試験なども行える。

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photo 川崎重工業のデモ。工場のロボットをデジタルツインで制御したり、テストしたりが可能になっている

 バウムクーヘンのブランドとして日本だけでなく世界でも知られているユーハイムは、「THEO(テオ)」と呼ばれるAIを活用したバウムクーヘン製造マシンを展示している。

photo ユーハイムのTHEO(テオ)
photo 焼き加減を画像認識で確認するカメラ

 バウムクーヘンのような洋菓子を製造する上で重要になるのは焼き加減で、それによっておいしくもなり、微妙にもなるというのは容易に想像ができるだろう。

 そうした焼き加減は、工場などで職人の目で調整されたりしているが、工場で作ると遠隔地に送るまでに時間がたってしまい、焼きたてのおいしさを届けるのが難しい。逆に、遠隔地で少量を作ろうとすると、熟練の職人を何人も配置するのは難しいというのが制約になる。

 そこで、このTHEOではその熟練の職人のノウハウをAIが学習して再現する。具体的にはAIがカメラで画像認識を行うことで、どこまで焼けばちょうどいいかを判断する。それによって誰でも適切な焼き加減で取り出すことが可能となる。同時に職人のノウハウを遠隔地の店員なども学べるという2次的な効果もあるということだった。

 今回、実際にその焼かれたバウムクーヘンを食べてみたが、確かに甘さとふんわりとした柔らかさがバランスよくできており、おいしくいただけた。

photo パイオニアの高機能ドライブレコーダーのNP1。既に市場で販売されている
photo NP1デモ展示のようす

 そして、パイオニアが展示していたのが、同社が既に販売しているNP1というドライブレコーダーのLLM(大規模言語モデル)を利用した対話型AIのデモだ。

 MicrosoftのAzure OpenAI Serviceを活用し、例えばドライブレコーダーに「お腹が空いた」と人間に話しかけるように話しかけると、AIが「お腹が空いたのですね。何か食べたいものはありますか?」などと答えてくれる。

 「ラーメンがいいな」と人間が答えると、近所のラーメン屋の選択肢を音声で答え、連動しているスマートフォン上のカーナビアプリに行き先を転送してルートを案内してくれる──そうした使い方ができるという。

photo LLMを利用したより自然なAIによる、新しい使い方の提案

 パイオニアのNP1は、機能をOTAでアップグレードできることを売りにしており、今回のデモも将来OTAでアップデート提供される機能候補の1つだという(あくまで計画で実際に提供されるかどうかは未定とのこと)。

 LLMの登場により、こうした対話型botの性能は大きく引き上げられることが期待できるので、将来のNP1のバージョンアップを楽しみに待ちたいところだ。

 ソニーセミコンダクターは、同社のCMOSセンサー「IMX500」とエッジAIの「AITRIOS」を組み合わせたデモを行っていた。

 ソニーはCMOSセンターに別の半導体を積層するソリューションを開発し、既に提供しているが、このIMX500ではISP(画像処理プロセッサ)に加えて、エッジAIを処理できるDSP(一般的な言い方をすればNPU)を積層していることが大きな特徴だ。エッジ側(カメラ単体)だけでAI処理を行えるようになっている。

 今回展示していたのは、Microsoftのパブリック・クラウドサービスであるAzureと連携して、人間は画像として残さずに性別や年齢などだけをデータとして残すという仕組みだ。ショッピングセンターなどで顧客のプライバシーなどに配慮しながら、来場者のデータを蓄積できる様子などをデモしていた。

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photo ソニーセミコンダクターのCMOSセンサー「IMX500」とエッジAIの「AITRIOS」を組み合わせたデモ

 平井氏によれば、こうしたデモはあくまで一例ということで、顧客が公表を希望しない例も含め、既に多くの事例がMicrosoft AI Co-Innovation Labで誕生しているという。手元にAIアプリケーションのアイデアはあって、開発チームも立ち上がっているが、完成までにハードルがあると感じているような企業であれば、Microsoft AI Co-Innovation Lab(神戸)に連絡をとってMicrosoftとの共創を検討してみるのも1つの手だろう。

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