ソニー、川崎重工、ユーハイム、パイオニア──各社が訪れる、MicrosoftのAI開発拠点が目指す道 実際に足を運んで実態を見てきた大人の社会科見学(1/3 ページ)

» 2023年12月20日 18時22分 公開
[笠原一輝ITmedia]

 Microsoftが兵庫県神戸市に設けた研究開発拠点が「Microsoft AI Co-Innovation Lab」だ。ここは地元自治体の神戸市、地元企業の川崎重工業と連携して作られたもので、Microsoftとその顧客が「共創」してAIを活用した新しいアプリケーションを提供することを目指す研究開発拠点となる。

photo Microsoftが兵庫県神戸市に設けているMicrosoft AI Co-Innovation Lab

 今回、Microsoftは12月13日に大阪で行われた「Microsoft Ignite Japan」に合わせて、サテライト会場として同拠点を参加者や報道関係者などに公開した。川崎重工業や神戸の有名菓子メーカーであるユーハイムといった企業に加えて、パイオニアやソニーセミコンダクターなどがAIを活用したデモを行って注目を集めた。

Microsoftと地元自治体、企業が協力して運営されている、世界で6番目のMicrosoft AI Co-Innovation Lab

 神戸のMicrosoft AI Co-Innovation Labは世界で6番目の拠点となる。いずれの施設もMicrosoftが顧客とAIを活用したソリューションのを目的としており、本社がある米国ワシントン州レッドモンド、ミュンヘン、上海、ウルグアイのモンテビデオ、サンフランシスコにも設置されている。

photo 今回神戸に開設されたのは世界で6番目のMicrosoft AI Co-Innovation Lab

 神戸にMicrosoft AI Co-Innovation Labが設立された背景には、川崎重工業を中心に、神戸市および賛同企業、団体からなる協議会(運営法人)からの支援があったという。

 今回は川崎重工業や神戸市などから話を聞く機会はなかったが、地元企業や地元自治体としても、Microsoftと一緒になってそうしたAI開発を行う場を設けることで、地元企業のイノベーションにつなげていきたいと考えているのだろう。

 実際、筆者が訪れたときも、川崎重工業やユーハイムのAIソリューションが展示されていた。もちろん、Microsoft AI Co-Innovation Labを利用できるのは地元の企業だけではないが、将来的には地元企業と別地域の企業の共創なども考えられる訳で、そうした意味でも地元への経済波及効果が大きいと考えたのだろう。

 なお、Microsoft AI Co-Innovation Labは神戸商工貿易センターという神戸市のビル内に置かれている。駅で言うとポートライナーの貿易センターから至近の場所にある。神戸市の繁華街の一つである三宮には駅で一つ、新幹線の「新神戸駅」にはその三宮から地下鉄で一駅、さらには神戸空港にもポートライナーで直行できるという全国からアクセスしやすい場所にある。

photo Microsoft AI Co-Innovation Labがある、神戸商工貿易センターの窓から見える夕焼け。神戸港の様子やポートアイランドがよく見える

 その神戸商工貿易センターの24階にある研究所は、以前はレストランとして活用されていた場所で、ビルからの眺めは絶景だ。神戸港の眺望が楽しめる場所で、今回筆者が訪れた夕方から夜にかけての時間では非常に美しい夜景を楽しめた。

photo
photo 夜景が非常に美しい

 研究所には、簡易的なデータセンターとして利用できるラックなども用意されており、顧客がオンプレミスの環境を持ち込みたい場合でも実現可能になっている。さらに電話会議用のスペースなども用意されており、顧客のプライバシーやデータ保護などにも配慮された構造になっている。

 また、共創用の部屋は左右対称で2つ用意されており、同時に2つの企業が並行して作業を行うことも可能だ(異なる企業が同時に作業するときはパーティションなどを立てることで互いに何をしているのか分からないように配慮されるとのことだった)。

photo 休憩できるカフェスペース
photo オンプレミスのサーバを置くためのラックスペース
photo 大人数で会議ができるミーティングスペースもあり、奥にはホワイトボードの代わりとなるSurface Hubが置かれている
photo ビデオ会議用個室
photo AIと人間の共存をイメージした壁画

Build for youではなく、Code with youというコンセプトで運営

 こうしたパートナー企業との共創するための研究所が必要になった背景に関して、Microsoft AI Co-Innovation Lab (神戸)の平井健裕所長は「AIの時代には、お客さまの目的に特化した共創拠点が必要だと判断して、こうした研究開発拠点を設置するに至った」と説明する。

photo Microsoft AI Co-Innovation Lab (神戸)の平井健裕所長

 現在、Microsoftは大きく分けて2つのAIアプリケーションを顧客に対して提供している。具体的には「Microsoft Copilot」と総称される、Microsoft自身がファーストパーティーとして提供するAIアプリケーションだ。

 従来は「Bing Chat」と呼ばれていた「Copilot」、Windows向けの「Copilot in Windows」、そして生産性向上ツール「Microsoft 365」向けの「Copilot for Microsoft 365」、そして開発者のコミュニティー兼開発環境となるGitHub向けのGitHub Copilotなどがよく知られているだろう。

 そうしたCopilotはMicrosoftが顧客にSaaSやOfficeアプリケーションなどのローカルアプリケーションとして提供する形になっており、言ってみれば従来の「Windows」や「Office」のAI版という位置付けになる。

 これに対して、Microsoftがパブリック・クラウドサービスとして提供しているAzure経由で提供されるのが、「Azure AI Service」「Azure OpenAI Service」などになる。

 こうしたAzure経由のAIサービスは、AIの基本部分や開発環境をMicrosoftが提供し、それを活用して顧客が自社の製品、サービス、自社従業員の生産性などを上げる用途で「テーラーメイド」でサービスを構築するためのものだ。日本マイクロソフトの岡嵜禎氏(執行役員 常務 クラウド&AIソリューション 事業本部長)の表現を借りれば「それぞれのお客さまのビジネスに特化したCopilot」を作り出すのが、これらのAzure AI Service、Azure OpenAI Serviceとなる。

photo 製品開発とはこうした試行錯誤がつきものだが
photo 寄り道をせずに最短距離で製品までたどりつけることを目指すのが、Microsoft AI Co-Innovation Labだ

 しかし、そうしたテーラーメイドされた「自社のためのCopilot」を構築していくためには、当然ながらパブリック・クラウドサービスとしてのAzureを理解する必要があるし、それを活用してコーディングも欠かせない。実際にやれる能力があっても、どこをとっかかりとしてよいか分からないという顧客企業も少なくないと平井氏は指摘する。

 「AIを使った製品を作り出す上で、製品の定義やテクノロジーのリサーチ、開発、テスト──さまざまなプロセスを経ていく必要がある。そこで、当研究所では、そうしたことを最短で行えるパスをお客さまに対して提供していく」(平井氏)とのことで、顧客が開発するプロセスをMicrosoftがアシストする、それが最大の目的だという。

photo Build for you(あなたのための開発)ではなく、Code with you(一緒にコードを書く)がコンセプト

 平井氏は「共創といっても、Microsoftが主体になって開発するというものではない。例えば、開発したコードはお客さまのコードだと明確に取り決めて契約を結んでいる。Microsoftが提供するのは、そうした最終的なコードを完成させるための知見、サポートを提供する形になる。ここではBuild for you(あなたのための開発)ではなく、Code with you(一緒にコードを書く)の取り組みだと説明させていただいている」と述べ、あくまで「顧客が主役」になって開発する、そのためにMicrosoftがアシストできる場を提供するのがMicrosoft AI Co-Innovation Labだと強調した。

photo 専任技術者が顧客をサポートし、既に800を超える企業の活用例がある

 このため、Microsoft AI Co-Innovation Lab(神戸)にはソフトウェア、クラウド、データサイエンスなどの20人以上の専任技術者が待機しており、顧客企業が開発することを助けているということだった。

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