Apple Vision Proは日本でも買えた! そのプロセスで感じられた語り尽くせない驚きの理由:本田雅一のクロスオーバーデジタル(3/3 ページ)

» 2024年01月24日 18時30分 公開
[本田雅一,ITmedia]
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視覚だけでなく“聴覚”の支配も進む?

 Apple Vision Proに触れていく中で、視覚に対してどのようにアプローチし、コンピュータによる再現でどこまで人間の感覚に対して近づけるのか――より精緻な工夫が、まだあるのだろう。

 スペックから逆算すると、Apple Vision Proの「視野解像度」(1度当たりの画素数:PPD)は、恐らく50〜55ぐらいになるだろう。視力換算では「視力1.0」で60PPD程度だとされているため、ほぼ肉眼で得られる情報量を得られるということになる。

 光学的な補正やデジタル領域での表示補正を徹底的に行っていることを考慮するなら、メガネユーザーにとっては肉眼はおろか、メガネを使った「矯正視力」でディスプレイを見るよりも、より快適に作業が行えるかもしれない。そうでなかったとしても、肉眼より見やすいが、近い将来は当たり前になっていく世界線が見え始めているともいえるだろう。

Apple Vision Pro Apple Vision ProのPPDは50〜55程度となる。ほぼ肉眼で得られる情報量を表示できる計算だ

 なるほど、だから“Vision Pro”なのかと個人的には納得しているが、恐らく聴覚を“だます”技術も、さらに進化するはずだ。

 昨今、「空間オーディオ」という言葉をよく聞く。これは空間の音響特性情報、音源の座標やエフェクトなど音場を構成する“設計図”をストリーミングデータとして用意し、それぞれのデバイスの特性に合わせてレンダリングする技術だ。この技術は音楽から応用が始まったが、Apple Vision Proのようなデジタルツインの世界を描くデバイスでも重要になる。

 Appleが実現を目指す「空間コンピュータ」では、空間を活用したコンテンツやアプリはもちろん、2Dのアプリ画面にも座標が割り当てられる。当然、複数のアプリが同時に動けば、結果的に“三次元的”な空間のあちこちに音源が“生じる”ことになる。

 視覚的に描かれる空間座標と、聴覚で感じられる空間座標の一致は、極めて重要となる。これをApple Vision Proの内蔵スピーカーよりも高音質で実現するために、AppleはUSB Type-C版の第2世代AirPods Proに独自の「低遅延ロスレスオーディオ」を追加している。

 一般に「ロスレス」というと音質の向上を図る文脈で考えがちだが、この低遅延ロスレスオーディオは、名前の通り音の遅延を極小化することが主目的となる。空間内の“音一致”を徹底するために、軽負荷のロスレス圧縮を行うというイメージだ。

 今後、この低遅延ロスレスオーディオは、他のAirPodsシリーズにも搭載されていくことになるだろう。

低遅延ロスレスオーディオ USB Type-C充電に対応する「Air Pods(第2世代)」には、Apple Vision Proでの利用を想定した「低遅延ロスレスオーディオ」が搭載されている

途方もない研究開発の成果で“一人勝ち”なるか?

 振り返ってみると、Apple Vision Proに至るまでにも、Appleは実に地道に技術開発を続けてきてきた。AR(拡張現実)への投資や空間オーディオ技術の磨き込み、あるいは独自開発のSoC(Apple Silicon)への移行も、全てはこの製品に向かうためだったのではと思えるほどだ。

 人間の視覚に近づき、コンピュータで再現するために、圧倒的かつ膨大な投資と製品開発を行い、Face IDを使った「自動フィッティング」を導入するなど購入に至るまでの流通システムを構築したApple。同社からは新しい時代を切り開くために、企業としての未来の“全て”を賭けているような“狂気”さえ感じる。

 空間コンピューティングの世界は、まだまだ遠い――そう考える読者も、もちろん少なくないだろう。このApple Vision Proが2024年や2025年のうちに主流になることは、もちろんない。しかし一度、その可能性が示されると、さまざまな企業が同じ方向を見始め、それまで顕在化していなかったものが見えてくるはずだ。

 2023年は「AI(人工知能)」の可能性が一気に顕在化した。では「Spatial(空間)」技術はどうだろうか?

 かつて、Microsoftが「Spatial Computing」をキーワードに「HoloLens」を開発した時には、まだ世の中は技術的に根づけるほどには進んでいなかった。

 しかし、より技術的に進み、さらにAppleが全社を挙げたこのプロジェクトからは“勝ち続けるまでやめない”だけの覚悟を感じる。途方もない研究開発の成果として、空間コンピューティングというジャンルが確立されたならば、当面の間、このジャンルに追いつけるライバルが登場するとはとても思えない。

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