Core Ultra 200S/200HXプロセッサのGPUタイル(内蔵GPU)は、Core Ultraプロセッサ(シリーズ1)と同様に「Xe-LPGアーキテクチャ」ベースだ。Xe-LPGは外付けGPU向けの「Xe-HPGアーキテクチャ」を元に開発されているが、推論プロセッサたるXMXを省いている。そのため、後述するCore Ultra 200HXプロセッサのGPUタイルとは“別物”と言ってよい。
Core Ultraプロセッサ(シリーズ1)の場合、Xeコアはモデルによって4〜8基だったが、Core Ultra 200Sプロセッサでは全モデルが4基構成となる。基本設計が共通するCore Ultra 200HXプロセッサも同様だ。Xe-LPGではXeコア1基にレイトレーシング(RT)ユニットが1基搭載されているので、RTユニットも合計4基しか搭載していない。
こうして見ると、Core Ultra 200S/200HXプロセッサのGPUタイルは高性能とは言いがたい。しかし、これらのCPUはゲーミングPCやハイエンドPCへの搭載を想定しており、ほとんどが外部GPUと併載されるものと思われる。要するに「おまけGPU」といったところだ。
ただ、このGPUタイルは単なる「おまけGPU」なのかと言われると、ちょっと違う面もある。
競合となるAMDのデスクトップ向けCPU「Ryzen 9000Xシリーズ」もGPUコアを内蔵しているが2コア構成で、ピーク時の演算性能は0.56TFLOPS程度しかない。本当の意味で「おまけGPU」だ。
しかし、Core Ultra 200S/200HXプロセッサのGPUタイルの性能は、規模的にCore Ultra(シリーズ1)における8コアGPUタイルの半分だと考えると「約4.8FLOPS÷2≒2.4TFLOPS」くらいはある。ゲーム機でいえば「プレイステーション4」のGPU(約1.8TFLOPS)を超える性能は確保している。おまけとしては“高性能”だ。
プロ級の動画編集やAAAクラスのゲームプレイは無理だとしても、趣味レベルのビデオ編集やカジュアルなPCゲームのプレイであれば、不満なくこなせそうではある。
ちなみに、Core Ultra 200HプロセッサのGPUタイルは、Xeコアが8基構成で、RTユニットも8基備えている。Core Ultraプロセッサ(シリーズ1)の上位モデルの内蔵GPUに近い構成だが、先述した通りXMXも搭載されている。そのため、理論的にはIntel Arc A370M Graphicsに近い性能は確保できるはずだ。ピーク性能も4.8TFLOPS程度はあると思われる。
「独立GPUは要らないが、それなりに高いグラフィックス性能は必要」というユーザーには響きそうである。
Arrow LakeのSoCタイルの設計思想は、Core Ultraプロセッサ(シリーズ1)とよく似ている。NPUと、ディスプレイ出力を担う「ディスプレイエンジン」や動画のハードウェアデコード/エンコードを担う「メディアエンジン」は、このタイルに統合されている。
Core Ultra 200Vプロセッサは新しい「NPU4(第4世代NPU)」を搭載していたが、Arrow LakeはCore Ultraプロセッサ(シリーズ1)と同じ「NPU3(第3世代NPU)」を搭載している。
NPU3はIntel傘下のMovidiusが開発した「VPU(Vision Processing Unit)」をベースとしており、2基のNCE(Neural Compute Engine:ニューラル演算エンジン)から構成される。NCEの1基当たりのピーク演算能力は、FP16(16bit浮動小数点演算)で1クロックあたり1024回、INT8(8bit整数演算)で1クロックあたり2048回だ。
NCEにはMovidiusが開発した「SHAVE(Streaming Hybrid Architecture Vector Engine)」という128bit SIMD-VLIWプロセッサ(DSP)が1基あたり2つ搭載されている。このSHAVE DSPは「128bitベクトル演算器」「32bit整数演算器」「32bit整数8要素SIMDスカラ演算器」といった高度な演算器を備えており、「比較命令」「分岐予測」「ループ制御」など高度な演算を高速にこなせる。
NPU3の公称ピーク性能は、Core Ultraプロセッサ(シリーズ1)では11.5TOPS程度とされていた。しかし、Arrow Lakeでは13TOPSに引き上げられている。これはシンプルに動作クロックが13%向上したからだ。
それでも、最大48TOPSの性能値を持つNPU4と比べると、ピーク性能はだいぶ見劣りする。NPU4はNPU3の3倍(6基)のNCEを搭載しているので、当たり前といえば当たり前だ。Microsoftが定める「新しいAI PC(Copilot+ PC)」の要件も満たせない。
「どうせ『新しいAI PC』になれないなら、いっそのことNPUを省いてもよかったのでは?」と思う人もいるかもしれないが、IntelとしてはAI処理をする際にCPUやGPUに負荷を掛けたくない(オフロードしたい)場合に役立つと、活用のしがいがあると考えて搭載したようだ。
同社が開催した発表会では、ゲーム実況配信などで用いられる定番配信アプリ「OBS Studio」において、グリーンバック無しで映るユーザーの顔面を、きれいに背景から切り出す処理をArrow LakeのNPUで実践する様子が実演された。
最近のPCでは、推論アクセラレーターがCPUにもGPUにも搭載されているケースが増えている。今後はこうした「推論アクセラレーターの使い分け」がPCを使いこなす上でのトレンドとなっていくのかもしれない。
ディスプレイエンジンは、4K(3840×2160ピクセル)/60HzのHDR映像を最大4ストリームの出力できる能力を持つ。ストリーム数は限定されるが、8K(7680×4320ピクセル)/60HzのHDR映像出力も可能だ。出力規格はHDMI 2.1、DisplayPort 2.1、eDP1.4に対応している。
メディアエンジンは、動画のデコード/エンコード共にH.265(HEVC)/VP9/AV1の各形式に対応し、デコードではH.264(MP4)もサポートする。最大解像度は、デコード時は8K/60Hz(HDR)、エンコード時は8K/120Hz(HDR)となる。エンコード時の方がより高いフレームレートに対応しているのが、ちょっと面白い。
Arrow Lakeのディスプレイエンジンの特徴。ディスプレイエンジン、メディアエンジンはMeteor Lake世代のものに近いが、エンコード性能が最大で8K/HDR…120Hzに対応するなど、微妙に強化されているようだ
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