ベンチマークテストを実施する前に、AI X1 Proに搭載しているRyzen AI 9 HX 370について少し掘り下げてみよう。
Ryzen AI 9 HX 370は最近のIntel CPUと同じく、Zen 5コアとZen 5cコアと呼ばれる異なるコアで構成されるヘテロジニアス構成となっている。
Intel CPUは負荷の高い処理に対応したPコアとバックグラウンド処理に対応した省電力のEコアで構成されており、PコアとEコアはそれぞれアーキテクチャが異なる。一方で、Zen 5コアとZen 5cコアは同じZen 5アーキテクチャが採用されている。
違いはZen 5コア1つあたりのL3キャッシュが4MB、Zen 5cコア1つあたりのL3キャッシュが1MBという部分で、それ以外のアーキテクチャについては同一だ。
アーキテクチャが同一であるメリットを1つ挙げると、Intel CPUの場合、AVX-512に対応しているのがPコアのみであるのに対し、Zen 5コアとZen 5cコアはアーキテクチャが同一であることから、どちらもAVX-512に対応している。よってAVX-512を使った複雑な演算処理が必要なアプリケーションを動かした際に、全てのコアを活用できるRyzen AI 9 HX 370であれば、高いパフォーマンスが期待できるというわけだ。
Ryzen AI 9 HX 370はZen 5コアが4コア、Zen 5cコアが8コアの合計12コアで、どちらもハイパースレッディングに対応しているため、モバイル向けのCPUながら24スレッドと驚異的なコアとスレッド数を誇る。なおベースクロックは2.0GHzで、Zen 5コアが最大5.1GHz、Zen 5cコアが最大3.3GHzで動作する。
内蔵グラフィックスは「Radeon 890M」で、AI X1で採用されていた「Radeon 780M」よりさらにパフォーマンスが高い。Radeon 780MもGeForce GTX 1650とほぼ近しいパフォーマンスを発揮していただけあって、Radeon 890Mのパフォーマンスがどれくらい高いのか非常に気になる。
内蔵グラフィックスを含めたRyzen AI 9 HX 370のパフォーマンスをチェックするために、各種ベンチマークを実行してみたので、ぜひ期待してご覧いただきたい。
テストで使用したのはメモリが32GB、ストレージは1TB SSDのモデル(14万9590円)だ。他に64GB/1TB(16万6390円)、96GB/2TB(18万6390円)のモデルが用意されている。
まずは、3DレンダリングによってCPUの性能をテストする「CINEBENCH R23」を実行し、Ryzen AI 9 HX 370の実力を測ってみた。結果は以下の通りだ。Ryzen 7 260を搭載したAI X1で測定した結果と比較しているので参考にしてほしい。
マルチコアスコアに関しては、Ryzen 7 260は8コア16スレッドに対して、Ryzen AI 9 HX 370は12コア24スレッドではあるものの、Zen 5コアとZen 5cコアの最大クロック周波数に差があることもあってか、約1.3倍程度の向上で収まっている。
シングルコアのスコアについては、どちらも最大クロック周波数が5.1GHzと同じでありながら、Ryzen AI 9 HX 370は約1.1倍のスコアをマークしており、Zen 4からZen 5へのアーキテクチャ変更だけでも、その恩恵は十分に得られそうだ。
続いて、さまざまなアプリケーションを実行して総合的なパフォーマンスを測定できる「PCMark 10」を実行し、AI X1 Proの総合的な実力を試してみた。結果は以下の通りだ。
Webブラウジングやビデオ会議、アプリ起動時間などから一般的なPCなどで利用時のパフォーマンスを測定するEssentialsテストでは大きなスコア差は発生しなかったものの、グラフィックス性能に依存する一般的なオフィス作業や、簡単なメディアコンテンツ制作時のパフォーマンスを計測するProductivity、写真編集やビデオ編集、3Dレンダリングなど、よりグラフィックス性能に依存するDigital Content CreationテストについてはAI X1 Proに軍配が上がった。
この差はやはりRadeon 890Mのパフォーマンス向上が影響しているものと考えられる。そこで記事執筆時点でシステム要件が高いゲームのベンチマークテストを実施してみた。
発売当初からシステム要件が高い「モンスターハンターワイルズ」のベンチマークテストの結果は以下の通りだ。なお、AI X1 Pro、AI X1共に、解像度はWUXGA(1920×1200ピクセル)に設定した上で、フレーム生成をオフにしてテストしている。
こうして結果を見てみると、AI X1 ProとAI X1ともにグラフィックプリセットが低であれば、WUXGA(1920×1200ピクセル)でも問題なくプレイできる判定となったことに驚きを隠せない。とはいえ、グラフィックプリセットを低以上にあげると、さすがに動作は厳しくなってくる。
例えばグラフィックプリセットを高にすると設定変更が推奨されるとの評価となり、平均FPSは21.15FPSに落ちる。これではかくつきが目立ってくるため、WUXGA(1920×1200ピクセル)でプレイする場合は、グラフィックプリセットを低に指定した方が良いだろう。
思ったよりスコアが振るわないように感じられるかもしれないが、AI X1 Proに搭載されているRadeon 890Mが内蔵グラフィックスということを考えると、このスコアは驚異的だ。
ここまでは主にAI X1 Proを一般的なPCとして利用した場合の性能について評価してきた。もちろん「外部グラフィックスがなくてもAAAタイトルのゲームをプレイできる」という大きな強みはあるが、メインはRyzen AI 9 HX 370に搭載されているNPUにある。
果たしてCopilot+ PCの認定を受けたAI X1 Proは生成AI機能を利用するにおいて、どのような強みがあるのかもう少し掘り下げてみよう。
Ryzen AIを利用する上で、開発者がAI推論アプリケーションを構築し、Ryzen AI APUの性能を最大限に活用できる統合環境として「Ryzen AI Software」がリリースされている。
現在公開されている最新バージョン1.2では、基本的にAMD Ryzen AI 300シリーズがサポート対象となっており、前回レビューしたAI X1に搭載されているRyzen 7 260では、そもそも対応していなかった。
その点、Ryzen AI 9 HX 370はAMD Ryzen AI 300シリーズのプロセッサなので、Ryzen AI Softwareを最大限活用してAI推論アプリケーションの開発が可能だ。
とはいえ、Ryzen AI 9 HX 370のNPUのパフォーマンスを比較するには、Ryzen AI Softwareでは現状簡単に計測できないことや、LMStudioなどのサードパーティーツールでは、現時点ではNPUが利用できない。
そこでAMD Ryzen AI 300シリーズを搭載したPCであれば、LLMエージェントを実行できる「AMD GAIA」を使って、Llama-2 7B Chatモデルを実際に動かして深い推論が必要となるプロンプト(命令)を実行した際の動きを確認してみた。
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