まるで“スパイ大作戦PC”――PHSモジュールで情報漏洩に対抗する富士通「CLEARSURE」システム

» 2010年03月19日 20時26分 公開
[山田祐介,ITmedia]
photo 坂巻健士氏

 「社内では“スパイ大作戦PC”と呼ばれている」――MCPC(モバイルコンピューティング推進コンソーシアム)が優秀なモバイルソリューションを募集・審査する「MCPC award 2010」の最終プレゼンテーションが3月19日に開催され、富士通の坂巻健士氏が同社のPC盗難・紛失対策ソリューション「CLEARSURE」(クリアシュア)による遠隔データ消去システムを説明した。PCにPHSモジュールを内蔵し、PHS網を介した遠隔データ消去や、基地局情報を利用したPCの所在地推定、データ消去後のリポートなど、「かゆいところに手が届く機能が充実している」と坂巻氏は胸を張った。


「事故発生後の最善の対策」を提供し、モバイル活用を後押し

 富士通グループでは国内で約16万台のPCが稼働し、そのうち持ち運び可能なものが7万台ある。これだけ膨大なPCが持ち出しできる状態では、ひったくりや車上荒らしなど、未然に防ぎようのないアクシデントでPCが盗難・紛失することも実際に起きるという。同社ではこうしたリスクに対処するため、申請書の提出フローや厳しい持ち出しルールが設けられ、「部署によっては理由を問わず禁止していることもある」(坂巻氏)など、モバイルPCメーカーといえどもPCのモバイル活用はハードルが高いのが実情だ。

photophoto 富士通における2009年10〜12月の情報セキュリティ事故の状況。半数以上が盗難や紛失によるものだ(写真=左)。情報管理とPCのモバイル活用のジレンマは、多くの企業に共通する課題だろう(写真=右)

 そのため、同社ではPCの社外持ち出しが控えられる傾向にあり、「外出先でタイムリーな顧客対応を逃したり、報告書を作成するために出張先からわざわざ事務所に戻って作業をしたりと、業務効率の低下を招いていた」(坂巻氏)という。この状況を打破すべく同社のIT管理部門とPC開発部門が協力し、「事故発生後の最善の対策を徹底的に議論」(坂巻氏)して開発したのがCLEARSUREだ。

photophoto 省電力のPHS通信モジュールを搭載し、PCの電源がオフになった状態でもリモート消去に対応する

 CLEARSUREに対応するモバイルPCにはウィルコムのPHS通信モジュールが内蔵され、PHS網を通じてデータを遠隔で消去できる。PCが電源オフの状態でもデータを消去できるのが大きな特徴で、「世界初の技術。社内では“スパイ大作戦PC”と呼ばれている」(坂巻氏)。CLEARSUREで採用するPHSモジュールは待機時の消費電力が少なく、「バッテリーが半分ぐらい残っていれば、PCの電源がオフの状態で1週間ほど待受ができる」(坂巻氏)

photo 消去結果レポート

 また、基地局が密にきめ細かく設置されているPHSの特徴により、GPSを搭載しなくてもPC付近の基地局情報からPCの所在地をある程度推測できる。これにより、紛失後に基地局情報を頼りにPCを探し、見つからなければデータを消去するといった段階的な運用が可能になる。「M2M用途に最適なナローバンドワイヤレスネットワークとして、PHSの可能性はアイデア次第で広がっていく」と、坂巻氏はPHS網のメリットに対して手応えを示した。

 さらにデータ消去後の「消去結果レポート」機能では、消去の完了日時に加え、基地局の位置、PCへの最終ログイン日時が通知され、消去する前にPCが起動されたかどうかを確認できる。「従来はPCを紛失すると事故報告書の手続きなどが大きな負担になったが、レポートで手続きを大幅に省略できる」(坂巻氏)というのが、同機能のメリットだ。


photo 富士通のCLEARSURE運用体制。既存の資産管理システムと連携し、既存システムで従業員番号を指定した上で消去指示をCLEARSURE管理サーバに送ることで、PCのデータが遠隔消去される。社内に24時間対応の専用コールセンターを設け、従業員がいつでもデータ消去を依頼できる環境も用意した

 情報漏洩の低減や業務効率の向上に加え、これらにまつわるコスト、さらに事故対応に伴うコストを削減できることが、坂巻氏が考えるCLEARSUREの導入メリットだ。2009年秋の発売以来、100社以上の企業が同ソリューションを導入しており、ランニングコストはもっとも安価な契約で1台の月額が500円程度だという。また、同社内では2009年の12月からCLEARSUREの導入が進んでおり、2010年3月末までに約7000台の運用が開始される見込み。さらに2013年度末までに持ち出し可能な7万台のPCのすべてをCLEARSURE対応PCに入れ替える予定だ。

※初出時、CLEARSUREのランニングコストを「月額が190円程度」と記載しましたが、富士通が再度試算したところ、500円程度になることが分かりました。よって文面を「月額が500円程度」に変更しました(2010年3月29日)

 CLEARSUREに対して審査員からは、「データを消去するまでの間に何かをされる」ことへの防止策が必要との意見が上がった。坂巻氏は「手元からPCが離れてしまうと何も手出しができなかった状況に対して、まずは遠隔地からの消去ソリューションを提供した。ほかにも、いつもと違うエリアに出た時点でデータを消すなど、アイデアは色々とあり、今後検討していきたい」と、機能拡張に対する意志を見せた。「社内導入が進んだことで、ソリューションに対する意見が社員から集まりはじめており、これらをスピーディに製品に反映させていきたい」(坂巻氏)

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