純増争いからゲームチェンジ、新戦略のキーワードは“連鎖”――KDDIの田中社長

» 2012年01月26日 23時19分 公開
[後藤祥子,ITmedia]
Photo KDDI 代表取締役社長の田中孝司氏

 回線を売るモデルからゲームチェンジ。固定と無線を1社で扱う強みを生かし、簡単にキャッチアップされない独自性を打ち出す――。第3四半期の決算会見に登壇したKDDIの田中孝司社長が、新たな成長戦略について語った。

 「3M戦略」(さまざまなサービスを、いつでもどこでも最適なネットワーク、最適な端末で利用できるようにする戦略)を掲げるKDDIは、この1月にコンシューマー法人向けに、モバイル網と固定網を連携させた新サービスを相次いで発表。新戦略へのシフトを加速させている。また、8年ぶりにauロゴも刷新し、“新生au”のアピールに余念がない。

 田中氏は、“より固定と無線との連携色を強めた”新たなビジネスモデルの狙いと、今後の展開について説明した。

モバイル中心から“FMC+付加価値型”モデルへ

 KDDIが目指すのは、旧来型ビジネスモデルからの脱却だ。これまで同社は、モバイルの回線販売を事業の主軸に据え、割引を目玉にユーザーの獲得を目指してきた。

 しかし、フィーチャーフォンに比べてキャリアが独自性を打ち出すのが難しい“スマートフォン時代”が到来したことや、市場のニーズが“マルチデバイス、マルチユース”に向かい始めていること、スマートフォンの普及でトラフィックが急増し、対策を急ぐ必要に迫られていることなどを受け、ビジネスモデルの変革に着手したという。

 新たなビジネスモデルでは、FMC事業を1社で提供している利点を生かし、他社が容易に追いつけないような独自性を打ち出すと田中氏。選べるネットワーク、豊富なラインアップの端末、どの端末からでもコンテンツを使えるマルチユース環境を用意して他社との差別化を図るとし、こうした発想から生まれたのが、「au ID」「auスマートバリュー」「auスマートパス」という3つの要素で構成されるコンシューマー向け戦略「スマートパスポート構想」というわけだ。

 auスマートバリューは、固定通信サービスとスマートフォンをセットで申し込んだユーザーについて、スマートフォンの月額利用料を割り引くサービスで、auスマートパスは月額390円で安心・安全対策とオンラインストレージ、500超のコンテンツを利用できるサービス。au IDは、ユーザーが環境に応じた最適なネットワークや端末でコンテンツを使えるよう、すべてのものをひもづける役割を担っている。

 スマートパスポート構想のARPU(ユーザーの月平均利用料)は1つのau IDのもと、コンテンツARPUと決済手数料を含めた「付加価値ARPU」、モバイルと固定を合わせた「FMC ARPU」で構成される形になる。KDDIでは、auスマートパスは付加価値ARPUを、auスマートバリューはFMC ARPUを最大化するものと位置付けており、それらを結びつけるau IDをベースにARPUの最大化を図っていく考えだ。

Photo ビジネスモデルをFMC+バリュー型モデルに変え、3つの要素を軸にARPUの最大化を目指す

 このモデルは、さまざまなレイヤーで“連鎖による効果”が見込めるところも大きな特徴となっている。例えば、固定通信サービスへの加入を条件にスマートフォンの利用料を安くするauスマートバリューは、データのオフロード対策としての効果が見込める。また、固定通信サービスを利用しているユーザーはスマートフォンの月額料金が安くなるため、家庭内の端末買い替えにつながる可能性もあると田中氏。さらに、そこから“アプリ定額取り放題”のauスマートパスに入ってもらえる確率も高いとみており、こうした連鎖がARPUの向上につながると予測する。

 また、タッチポイントが増えるのもメリットの1つだ。auスマートバリューでKDDIが提携する固定通信事業者は44社にのぼり、これら910万世帯の顧客基盤にauのスマートフォンを訴求できることになる。田中氏は「今まではスマートフォンのタッチポイントしかなかったが、提携事業者と合わせてタッチポイントの最大化を図れる」と、自信を見せた。

Photo 固定とモバイルの連携サービスが連鎖を生み、ARPUの向上や販売チャネルの最大化、データオフロード対策につながる

 KDDIでは、今回の取り組みを皮切りにスマートパスポート構想を推進する考え。夏頃には対応デバイスの拡大や定額コンテンツの提供などでマルチデバイス、マルチユース分野にサービスを拡大。その後、今冬のサービス開始を予定しているLTEも取り入れながら、よりつながるマルチユースの実現を目指す。

Photo スマートパスポート構想のロードマップ

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