連載
» 2011年11月07日 15時00分 UPDATE

小寺信良「ケータイの力学」:青少年条例と憲法の関係

青少年保護を目的として行われるケータイフィルタリングや有害図書類の販売・閲覧禁止は、それを定めた法律や条令によって行われている。人の行動を制限するという重大な法令だが、憲法との整合性はどのようになっているのだろう。

[小寺信良,ITmedia]

 ちょっと前になるが、MIAUも参加する安心ネット作り促進協議会で、会員向けの第5回勉強会が行なわれた。「青少年条例と憲法」というテーマで、京都大学大学院法学研究科の曽我部真裕准教授にご講演いただいたが、その内容が大変興味深かったので、今回はこの講演内容のポイントを簡単にまとめてみようと思う。

 子供と携帯電話の関係は、国の法律である「青少年インターネット環境整備法」によって規制を受けているが、その下位層には各都道府県が制定する青少年健全育成条例(以下青少年条例)がある。国の法律では決められない細かい部分を、地方自治体で規定している格好だ。

 そもそもこれら青少年条例の成り立ちは、戦後の出版自由化に伴う少年向け悪書追放運動が最初である。1950年に初めて岡山県が条例として制定したのをきっかけに、国レベルの法律化の動きが高まったが、55年に断念。その後、地方独自の条例化の動きが広まっていった。現在、長野県以外は都道府県レベルで青少年条例がある。長野県の場合、市町村レベルでの条例はある。

 青少年条例の構造は、主に2つの柱から成っている。一つは「青少年保護のための本人の自由の制限」、もう一つは、「青少年保護のための成人の自由の制限」である。

 「本人の自由の制限」は、有害図書類へのアクセス禁止、ネット情報のフィルタリングといった情報行動に関する制限と、有害なもの(刃物、性具など)へのアクセス制限、一定の場所(カラオケ店、ゲームセンターなど)への夜間立ち入り制限、着用済み下着等の販売禁止といった、情報行動以外に関する制限に分けられる。

 一方、成人に対する自由の制限には、有害図書類の販売禁止、青少年との淫行、わいせつ行為の禁止、児童ポルノ所持の禁止、子どもの性的な虐待の記録の製造・販売制限などがある。児童ポルノ製造の禁止は、すでに国の法律である児童ポルノ規制法で規制されているので、条例には入っていない。

 児童ポルノ規制法のほか、青少年に関する国の法律としては、児童福祉法、先の青少年インターネット環境整備法、出会い系サイト規制法、売春防止法、刑法(わいせつ規制)、児童虐待防止法などが機能している。

憲法上の人権との整合性

 自由主義社会において、人の行動を規制するというのは、憲法に定められた数々の自由を制限することであり、大変な権力である。曽我部先生の講演でもっとも興味深いのはこの部分だ。

 「あなたのためだから」という理由で人権を制限できるのか。通常人権の制限は、他者の人権や公益を害する場合にのみ可能である。したがって、本人にとって有害であることを理由に、人権制限はできないのではないか。例えば成人であっても過度の飲酒・喫煙は健康を害する恐れがあるが、行動が規制されているわけではない。

 一方で青少年を対象にしたときにのみ、青少年条例が青少年の人権を制限できるのはどういう理由からか。憲法学説的には、未成年者自身の判断能力が未熟であるがゆえに、長期的に見て害があるであろうと判断される場合であるとされている。

 ただ具体的に何か規制するとなると、その対象物が本当に害を与えるのだという根拠はいらないのか、という問題にぶちあたる。例えば昨年大もめにもめた東京都健全育成条例改正案の、いわゆる「非実在青少年」の問題は、実際に虐待被害などのない絵画上での表現で、本当に青少年に何かの影響があるのかという点でも大きな議論を巻き起こした。具体的な因果関係があやふやなままに、憲法で規定されている表現の自由と知る権利を制限することになるわけだ。

 これに対する回答として、一つの最高裁判決がある。1989年の岐阜県青少年保護育成条例事件である。この判決文には

 「本条例の定めるような有害図書が一般に思慮分別の未熟な青少年の性に関する価値観に悪い影響を及ぼし、性的な逸脱行為や残虐な行為を容認する風潮の助長につながるものであって、青少年の健全な育成に有害であることは、既に社会共通の認識になっているといってよい。」

 とある。つまり青少年条例に関して言えば、規制の対象に科学的な因果関係は必ずしも必要ではなく、害があるという「社会共通の認識」があれば良いということになっている。

 個人的にこの点にはほんとかよーという違和感を感じるし、その社会共通の認識をどのように測定、あるいは証明するのかという問題が残るように思われるが、法学としてはこの最高裁判決があることが、青少年条例が合憲であるという根拠になるということである。

 この勉強会ではそのほかにも、児童ポルノ規制を含む最近の問題についても解説している。曽我部先生の講演は非常にわかりやすいので、このようなことをもっと深く学びたいと思ったら、Ustreamのアーカイブが無償公開されているので、ぜひご覧になっていただきたい。

小寺信良

映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。最新著作は、ITmedia +Dモバイルでの連載「ケータイの力学」と、「もっとグッドタイムス」掲載のインタビュー記事を再構成して加筆・修正を行ない、注釈・資料を追加した「子供がケータイを持ってはいけないか?」(ポット出版)(amazon.co.jpで購入)。


Copyright© 2016 ITmedia, Inc. All Rights Reserved.