9月8日に警察庁が発表した「平成23年上半期の出会い系サイト等に起因する事犯の検挙状況について」(PDF)という資料がある。例年上下半期ごとにリリースされるサイバー犯罪対策の統計資料であるが、これによると今年上半期は、統計を取り始めた平成20年から初めて、出会い系・コミュニティサイトに起因する児童被害者が両方とも減少した。
グラフで被害児童数よりも検挙件数の方が多いのは、1人の児童が複数の検挙事案に関わっている場合があるからである。例えば性行為をしたあと、その場で写真を撮るなどして児童ポルノを製造した、といった場合、被害児童は1だが検挙件数は2となる。
まだ上半期の前年度比で微減といった状況だが、その背景には今年初めからKDDIが提供を開始した「年齢認証サービス」の効果が大きいものと思われる。ユーザーの年齢詐称が減ったことで、サービス事業者がセットした青少年保護のシステムがちゃんと動作するようになった。
心強いことにソフトバンクモバイルも、この秋からKDDIと同様にユーザーの契約情報に基づいた年齢情報をコンテンツ提供者に開示する。これでこの年齢認証サービスを提供しないのは、3キャリアのうちNTTドコモだけとなったわけだが、現時点でドコモの対応の可否について何の情報も発表されていない。
以前も書いたが、これは個人情報を開示するものではない。サービス事業者からの問い合わせた年齢に対して、それより上か下かだけを返すものである。例えば16歳未満には公開していないサービスがあったとすると、そこに入ろうとしたユーザーに対してサービス事業者からは、キャリアにこの人は16歳かを問い合わせる。キャリアから「上」という情報が帰ってくれば通し、「下」なら通さない。
なお、この問い合わせ情報はサービス側にしばらくプールされるので、サービスを利用するたびに毎回問い合わせが発生するわけではない。ちょうど境目の年齢だった場合、誕生日からすぐに使えるようにはならないが、数日から2週間ぐらいまでの間で再認証され、使えるようになるはずだという。なお年齢認証サービスを利用しないユーザーに対しては、年齢確認が必要な機能が使えないといった対応が取られている。
どのサービスに対して年齢確認対応をするかという判断は、ユーザー側で決めることができる。ソフトバンクの場合は、各種契約の確認や設定を行なう「マイソフトバンク」の中で設定することになる。
上記のような取り組みは、少なくとも携帯キャリアを経由した通信で縛るサービスでなければ働かない。なぜならば、携帯電話の契約時の利用者情報が年齢確認のベースになっているからである。
大手ケータイ向けSNSが厳しく対応を始めたことで、次第に、ケータイでもPCでも見られる草の根掲示板のようなところに、問題が押し出される傾向が現われている。
9月20日の報道によれば、インターネットの無料レンタル掲示板に開設された無届け出会い系サイトを黙認したとして、無料レンタル掲示板運営会社の社長が、出会い系サイト規制法違反ほう助の疑いで逮捕された。実際に問題の掲示板を開設した者ではなく、レンタル掲示板の運営者が摘発されたのは、全国初である。
通常、出会い系の掲示板を開設するには届け出が必要だが、この掲示板開設者に対して届け出を指導するなどの適切な措置を執らなかった、ということであった。実際に逮捕事例が出たことで、運営者の責任、監視の負担が明確化されたことになる。
大手では数百人体制で人を雇って24時間監視を行なっているが、小規模事業者ではその体制作りが難しいのは理解できる。しかし今回は、逮捕前に運営者に対して数回にわたって警察から警告が出されており、それを無視し続けたことで逮捕となったようだ。なにも「いきなり踏み込まれてアウト」ではなかったようで、これはさすがに言い訳はできないだろう。
これまでほとんど表に出ることがなかったが、今後注意を要するのは、ゲイなど同性愛者のコミュニティではないかと思われる。先の警察庁発表の資料の表に、コミュニティサイトに起因する事犯の重要犯罪として、「殺人 1」とあるのがそれだ。幸いこれは未遂だそうだが、コミュニティサイトで起こった事例としてはかなり重い。
実はこの事件を客観的に観察すれば、コミュニティサイトではなく、出会い系サイトに分類すべき事例である。しかし出会い系サイト規制法の定義では、出会い系サイトとは「異性間の紹介事業」であるので「同性間の紹介事業」は出会い系に当たらないという、変な穴が開いた状態になっている。それで必然的に「コミュニティサイト」に分類されてしまうわけである。
性にいろいろな形があることを否定するものではないが、マイノリティ、すなわち少人数であるにも関わらず犯罪発生率が高いという結果が出れば、社会からは性的マイノリティ全体が危険視されてしまうだろう。なかなか普通の人が介入できないコミュニティであるが故に、早い段階でグループに属している人たち自身による、積極的な安全対策がとられるいことに期待するしかない。
映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。最新著作は、ITmedia +Dモバイルでの連載「ケータイの力学」と、「もっとグッドタイムス」掲載のインタビュー記事を再構成して加筆・修正を行ない、注釈・資料を追加した「子供がケータイを持ってはいけないか?」(ポット出版)(amazon.co.jpで購入)。
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